研究課題/領域番号 |
20K00033
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
笠木 雅史 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (60713576)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認識論 / メタ倫理学 / 知識 / 徳認識論 / アジア哲学 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究実績として、"Archery and Liezi's Conception of Virtues"、"Epistemic Injustice and Confucian Wisdom: A Case Study"という発表2つを国際学会で行ったほか、Duncan Pritchard (2018) What is This Thing Called Knowledge?, 4th Editionを日本語に翻訳した(コロナ禍により遅れているが、2022年に出版社から刊行予定)。 これらの業績は全て、「徳認識論」と呼ばれる分野に属し、よい知的探求者が備える性格特性や能力から、知識や知恵などの認知状態を理解することを目指すものである。阻却要因に関する本研究にとって徳認識論が重要となるのは、徳を備えることによって知識を持つことが可能となるならば、徳を損なうことによって知識が失われることも可能だと考えられるからである。つまり、徳の不在や欠損についての理由は、阻却要因として機能することがある。さらに、何が徳とみなされるかには、知的探究に関わる考察以外に、道徳的考察も重要であるため、道徳的な理由が、知識の阻却要因となることをうまく説明することができる。 翻訳した図書は、徳認識論の観点からさまざまな応用分野を扱っており、認識的、実践的、道徳的阻却要因を統一的に説明する本研究に有益である。2つの国際学会での発表では、特に中国や日本の哲学で徳がどのように理解されていたのか、それが知識の有無についての判断にどのように関係しているのかを分析した。これらの研究では、認識的要因と道徳的要因が相互作用して知識の有無が帰結するという点に関して、哲学史から具体的な例を取り出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は本来、本研究のテーマについての国際学会を開催し、国外の研究者と本研究についての意見交換や情報収集を行うことを予定していた。コロナ状況により対面形式での開催が難しいならばオンラインで開催する計画であったが、ヨーロッパやアメリカでは2021年度から学会が対面形式での開催に戻りつつあり、日本でも状況がある程度好転しつつあったことから、対面形式での学会開催を模索することにした。しかし、結果として、対面で開催することが叶わなかったため、学会開催は2022年度に延期することにした。 しかしながら、海外の研究者と本研究についての意見交換は続けており、また国際学会でも研究成果を発表することもできた。このため、研究自体は順調に継続されている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、様々な種類の阻却要因の機能を分析するという理論的研究とともに、社会の具体的な場面で阻却要因が関わる現象を取り出し、考察するという応用的研究を行っている。このうち、理論的な研究については、近年の研究で指摘されている問題に取り組むことが不可欠である。それは、実践的、道徳的阻却要因とされてきたものは、実際には信念を阻却する理由としては機能せず、阻却要因にはなりえないという問題である。今後は、この問題を回避するために、実践的、道徳的阻却要因とされてきたものが、何についての理由なのか、それがどのように信念に関わるのかをより詳細に分析し、それらが信念を直接阻却する理由でないとしても、間接的に阻却する理由となりうるということを示したいと考えている。 応用的な研究については、特定集団についての偏見から知識保持者とみなされないことがあるという「認識的不正義」と呼ばれる現象について、すでに研究を開始し、2021年度に行った研究発表の1つは、それを主題としている。知識を阻却する偏見は、時代や文化によっても異なるため、海外の研究を日本の文脈にそのまま適用することが困難な部分もある。このため、日本特有の文脈について歴史学、社会学、心理学の研究を参照にしながら、より詳細に探求を進めたいと考えている。 また、2021年度に開催する予定であったが延期することにした国際学会については、2022年度に実施し、本研究のテーマについての国際交流を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
開催予定であった国際学会を延期することにしたため、そのための予算を繰り越すことにする。
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