研究課題/領域番号 |
20K00049
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馬場 紀寿 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (40431829)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スリランカ / パーリ仏典 / 大寺 / サンスクリット・コスモポリス / 上座部 / 仏教 / パーリ・コスモポリス |
研究実績の概要 |
4世紀から13世紀にかけての約1000年、南アジアと東南アジアでは、サンスクリット語が政治の言語となって知識人が用いる普遍語としての地位を確立し、サンスクリット語の法典、文法学、叙事詩、ヒンドゥー教聖典や仏典が共有された。このサンスクリット語の国際空間にあって、サンスクリット語の権威を転倒してパーリ語の地位を高め(ようとし)たのが、スリランカの大寺という仏教僧院を拠点とする一派である。この大寺派が5世紀に確立した「歴史」と「言語」にかんする言説は、脈々と継承され、サンスクリット・コスモポリスが終焉を迎えた13世紀以降、東南アジア大陸部で飛躍的に広がった。このパーリ語を聖典言語として共有した、スリランカと東南アジア大陸部の国際空間は、「パーリ・コスモポリス」と呼ぶことができる。本研究では、このスリランカの大寺が創造し、伝承し、後のパーリ・コスモポリスを準備した言説を調査しており、2021年度は、これまでの研究を体系化して、パーリ・コスモポリスの成立にかかわるパーリ仏典の文献学的分析をしつつ、およそ1世紀から20世紀に到る南アジア・東南アジア仏教史を時系列に沿ってまとめた。今日、仏教の分類概念として世界的に普及している「大乗仏教」「上座部仏教」という分類概念は、パーリ・コスモポリス消滅後に、ヨーロッパに広まった近代版パーリ語原理主義の下で創造されたものである。本研究の成果を『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』(東京大学出版会、2022年2月)として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は、これまで進めてきた、諸部派と大乗との関係にかんする研究、サンスクリット・コスモポリスにおける仏教にかんする研究、4―5世紀に編纂された上座部大寺派のパーリ文献にかんする研究、19世紀から20世紀に創造された「大乗仏教」「上座部仏教」という仏教の分類概念にかんする研究などの諸研究を体系化して、大寺派のパーリ・コスモポリスの成立過程を解明した。本成果は、『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』(東京大学出版会、2022年2月)として発表された。また、Dhammasakaccha International Level Students' Conference on Buddhist Commentarial Literature (Department of Pali and Buddhist Studies of Savitribai Phule Pune University, March 5 2022)では招待講演(Why the Pali Commentarial Literature Matters)を行い、The Harvard Buddhist Studies Forumでは"Sanskrit vs Pali: Buddhaghosa’s Linguistic Turn and its Impacts on Mainland Southeast Asia"(March 7 2022)、Harvard-Yenching Instituteでは、"Three Years in Ceylon: How Shaku Soen Invented “Mahayana Buddhism”"(March 21 2022)と題した講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
パーリ・コスモポリスが近代における仏教分類概念の成立に与えた影響の大きさが確認されたため、今後、さらにパーリ文献と19世紀の仏教学論文の調査を進め、パーリ文献が近代仏教学の言説に与えた影響の全体像を解明することを目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張や海外からの招聘を計画していたが、コロナ感染状況の悪化のため、すべてキャンセルとなったから。2022年度には、英語での出版を準備するために、海外から研究者を招き、英文原稿を校正すること、また資料電子データ作成のために若手研究者の協力を仰ぐことに、人件費・謝金を用い、また資料の購入に物品費を用い、8月にソウル大学で予定されている国際仏教学会学術大会への参加などの海外出張に旅費を用いる予定である。
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