研究課題/領域番号 |
20K00053
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
末永 高康 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (30305106)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 『礼記』 / 『儀礼』 / 喪礼 / 変除礼 |
研究実績の概要 |
本年度は、喪服の変除礼を中心として、初期礼学の展開における、礼経の完備化の過程について分析を加えた。 喪礼においては、喪のステージが進むにしたがって喪服を改めていく。これを「変除」という。だが、『儀礼』の士喪礼、既夕礼、士虞礼の「経」「記」に変除に関する記載は少ない。変除については、『儀礼』喪服篇の「伝」「記」や、『礼記』の諸篇によって、その礼が完備化されていくことになる。この完備化の過程を追いながら、初期礼学の展開の一側面を明らかにした。 主たる成果としては、まず『儀礼』士喪礼等の想定する変除礼と、喪服篇の喪服制が必ずしも一致しないことを明らかにした。士喪礼等が喪主たる嫡子と、それ以外の庶子の服制を区別しようとするのに対し、喪服篇は嫡子と庶子に区別を設けておらず、この段階で変除礼の展開にひとつのねじれが生じており、このねじれが例えば「衆主人」に対する鄭玄注のブレを生じさせ、後の変除礼の議論を複雑化させている。 同様のねじれが喪服「伝」が喪服の升数について「経」の規定とは調和的でない新たな原則を持ち込んでいることからも生じており、このねじれを解きほぐすことにより、『礼記』間伝篇に至る升数についての議論の展開を明らかにした。 『礼記』諸篇に見える変除礼の記載については、檀弓篇に比較的古い段階の変除礼についての伝承が保存されていることを明らかにして、それら伝承が後の変除礼の構成に与えた影響を論ずるとともに、喪服小記、雑記等に見える記載の段階を経て、間伝篇の記載の段階に至る変除礼の完備化の過程を示した。 また、『礼記正義』雑記上篇の一部に詳細な訳注を施し、学術雑誌に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階で本研究が主たる対象としたのは『礼記』の喪服小記、雑記、喪大記等の篇であり、これらは喪礼についての議論を中心としたものである。昨年度は、服喪の対象者と喪のランクに関する議論の分析を行い、本年度は喪服の変除に関する分析を行っており、これで喪服制の主要な部分についての分析を一通り終えたことになる。 上記の『礼記』諸篇の分析に際しては、『儀礼』の「経」「記」「伝」についての分析が不可欠であるが、その分析も合わせ行うことができており、『儀礼』の「経」の段階から、『礼記』諸篇に至る喪礼の完備化の過程のいくつかの側面について描き出すことに成功している。 また、計画書に記した『礼記正義』の訳注についても、定期的に学術雑誌に掲載を続けることができている。 以上のことから、「おおむね順調に進展している」との判断を下した。
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今後の研究の推進方策 |
『礼記』の喪服小記、雑記、喪大記等の諸篇には、喪が重複した場合の議論や、喪礼と他礼が重複した場合についての議論が少なからず見えている。変除礼を基礎にして行われているそれらの議論もまた、礼の完備化をうながすものである。本年度の変除礼についての分析を基礎とし、奔喪礼や曾子問篇に見える変礼の議論も視野に入れつつ、これらの議論に分析を加え、喪礼を中心とする礼の完備化の過程の一側面を描き出していく。 また、喪大記篇を中心として記されている、士礼以外の喪礼もまた、各階層における喪礼の完備化の過程を示すものである。喪大記に見える士礼は、『儀礼』士喪礼等に記される喪礼と一致しない点が少なくない。この不一致が生じている原因を考察しつつ、喪大記篇の資料的性格を明らかにしながら、この篇を中心として、大夫以上の喪礼の完備化の過程を分析していく。 以上の二点の分析が完了すれば、計画時に想定していた範囲の研究はほぼ終了することになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった書籍の出版が遅れて年度末までに購入することができなかった。出版されしだい購入する予定である。
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