本年度の成果は大きく二つに分かれる。ひとつは、昨年度の喪服変除礼の研究において積み残されていた親族の喪が重複した場合の規定についての分析である。雑記篇・喪服小記篇に散見する喪の重複に関する記述は、いまだその背後に体系化された規定を有しておらず、喪の重複に関するより一般的な原則が示されるのは曾子問篇に至ってであること、また喪の重複に関する規定が整備されるのは服問篇・間伝篇に至ってであるが、両篇の基づく原則は互いに一致しておらず、『礼記』諸篇の成立の段階では、両者の統一は図られていないこと等を明らかにした。 他の一つは、喪大記篇を中心とする大夫以上の喪礼の記述についての分析である。そこでは喪大記篇の作者たちが、士喪礼を基盤として大夫以上の喪礼を構成していく過程を再生するとともに、大夫以上の喪礼を含む喪礼全体の体系との関係から、彼らが士喪礼を一部見直していることを明らかにした。また、『儀礼』の少牢饋食礼が士礼の特牲饋食礼を利用しつつも、士礼とは性格を異にする大夫の祭礼を構成しているのとは異なり、喪大記篇は士礼と相似形に大夫以上の喪礼を構成しており、大夫以上の喪礼を構成する試みとしては、雑記篇等に散見するそれに比して、初期の段階に属することを明らかにした。また、『儀礼』の経に類した大夫以上の喪礼の記録としては、雑記篇に諸侯の弔問礼が残されているが、喪大記篇等の記述から、これが例外的な試みに属し、『儀礼』の士喪礼(既夕礼を含む)と同様の形で大夫以上の喪礼を記述する試みはなされなかったであろうことを示した。 昨年度までの実績である喪服礼の完備化の過程の分析および変除礼の完備化の過程の分析を含めて、これで当初の研究計画で予定していた研究はほぼ終了したことになる。 また、昨年度に引き続き、『礼記正義』の雑記上篇について訳注作業を行い、学術誌上に掲載した。
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