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2021 年度 実施状況報告書

家族概念から見る近代国家におけるイスラム性と世俗性:20世紀のエジプトを中心に

研究課題

研究課題/領域番号 20K00069
研究機関東京外国語大学

研究代表者

八木 久美子  東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90251561)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワードイスラム / 世俗性 / 国教 / 家族 / 教育 / 宗教
研究実績の概要

本年度は、エジプトの公教育における「宗教」科目に着目した。そのきっかけとなったのは、まず、昨年度までの研究で、エジプトの公教育では小学校から高校まで一貫して「宗教」科目が必修(イスラム教徒とキリスト教徒は別の教科書を使い、別の教室で授業を受ける形式)であり、かつエジプトの公教育における教科書は教科ごとに政府が用意する一種類のみであることを考えると、国民に広く共有されるという意味で、エジプト社会における一般的なイスラム観(あるいは宗教観)を考えるには、この科目で教えられる内容、教科書の記述を見ることが不可欠であることが明らかになったためである。
さらに重要なのは、「宗教」科目で教えられるイスラムには、教義や儀礼にとどまらず、宗教・宗派の差異を超えてエジプト国民が共有することを期待されているような価値規範、道徳律と見られるものが多く含まれているという点である。そしてそこでは、イスラムの教えとして、正しい結婚、あるべき家族関係についても語られる。言い換えれば国家によって打ち出される「イスラム性」は宗教の差異を超えた「エジプト人性」と大きく重なっていることが明らかになった点は大きな収穫であった。
そのうえで本年あらたに着手したのは、エジプトにおける公教育の二重性、つまりいわゆる(世俗的・近代的)一般系教育と(宗教的・伝統的)アズハル系教育の併存の持つ意味の分析である。その結果、一般系の教育において「宗教」科目の教育に当たるのは、一般系の大学を出た「アラビア語」科目の教員であり、全就学者の9割を占める一般系の学校で教えられる「イスラム」はウラマーの手から離れ、教育相の管理のもとにあること、そしてその一方で、一般系とは別にアズハル系教育を残すことで、エジプトという国家の「イスラム性」が教育の場で担保されていることが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

コロナ禍により、予定していた海外調査は行うことができなかった。
しかしながら、公教育における宗教/イスラムを分析するにあたり、教育省がウェブ上に公開している小学校から高校までの教科書の最新版を入手することができた。それを見ることで、「宗教」科目で教えられる内容が、予想されていたものよりも広範囲にわたり、一般的な道徳規範といえるものまで組み込んでいることが明らかになったことで、今後の研究に役立つと思われるあらたな視点を手に入れることができた。

今後の研究の推進方策

エジプトの公教育におけるイスラム教徒の生徒用の「宗教」教科書に現れる家族は、経済的な責任を担う庇護者としての父親と、家族のケアの担い手である母親を中心としたものであり、性による役割分担に基づき、愛と慈しみにあふれた家族であることが確認された。
しかしながら、教科書のなかで家族が一貫してこのように描かれ、このような家族像こそが正しいと教え続けられていることの背後にはその崩壊があることも想像に難くない。 とりわけ女性の社会進出が進み、かつ核家族化の進行が顕著な都市部では、従来、家族のなかで行われてきた高齢者、障碍者、病者のケアが困難になっている。
コロナ禍は、こうした事態が持つ意味の深刻さを浮き彫りにした。当事者の意志とは関係なく、病床にある家族・親族を見舞うことができない、老いた親族の世話をすることができない、という現実が発生したことは、さらに問題を深刻なものとした。
これまでイスラムの教えという枠組みの中で語られてきた、家族の義務としての弱者のケアという考え方が問い直されているといったも過言ではない。今後は、高齢者、病者のケアに関して、それが(宗教を問わず)家族の義務とされているのか、それともイスラム教徒の義務とされているのか、さらには国家の義務という視点はないのか、という点について着目していきたい。

次年度使用額が生じた理由

2021年度は、コロナ禍によりエジプトの国立図書館、カイロ大学図書館での資料収集ができなくたったため旅費を執行することができなかった。上に記したとおり、公教育における最新の教科書についてはウェブ上で公開されており入手することができたが、内容の変化を見るためには過去の教科書を見ることが不可欠である。そのため、2022年度は、当初から予定していたアメリカのハーバード大学(Middle Eastern Collection)に加え、12月~1月にエジプトへも資料収集に行く予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 「エジプトの公教育におけるイスラム―「世俗的」国家のなかの国教」2021

    • 著者名/発表者名
      八木久美子
    • 雑誌名

      東京外国語大学論集

      巻: 103 ページ: 83-99

    • DOI

      10.15026/116895

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 「イスラムはコロナ禍をどうとらえるか」2022

    • 著者名/発表者名
      八木久美子
    • 学会等名
      第68回コルモス会議公開シンポジウム「グローバルな厄災と宗教」
    • 招待講演
  • [学会発表] 「国教としてのイスラムと公教育における宗教―エジプトの例から―」2021

    • 著者名/発表者名
      八木久美子
    • 学会等名
      日本宗教学会第80回学術大会

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公開日: 2022-12-28  

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