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2022 年度 実施状況報告書

エラノス会議における聖概念と心理学的治癒の連結に関する宗教学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K00074
研究機関北海道科学大学

研究代表者

奥山 史亮  北海道科学大学, 全学共通教育部, 准教授 (10632218)

研究分担者 江川 純一  明治学院大学, 国際学部, 研究員 (40636693)
藁科 智恵  日本大学, 国際関係学部, 助教 (60868016)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード聖なるもの / 宗教現象学 / ナショナリズム / 分析心理学 / 宗教史学
研究実績の概要

本年度において得られた研究成果は、以下のとおりである。
エラノス会議と宗教学の交差:エラノス会議にはオットーやハイラー、レーウ、ペッタッツォーニ、エリアーデ等、「宗教現象学者」「宗教史学者」として知られる研究者たちがかかわってきたが、彼らがエラノス会議に参加するに至った歴史的コンテクスト、ユング派心理学と宗教現象学および宗教史学の協働可能性に関する彼らの見解などは未整理となっていた。本年度は、エリアーデ、オットー、ペッタッツォーニらがつくりあげようとしていた学問の特質を整理しながら、それらとエラノス会議の共通性および相違点を明らかにすることを試みた。エリアーデは、大戦間期のルーマニアにおいて、ナショナリズムを主導していたコルネリュー・ゼーリャ・コドリャーヌやナエ・イオネスク、イタリアのファシズムを主導したユリウス・エヴォラらと協働し、「民族の伝統」となりうる宗教を歴史的過去および深層心理に見出すための研究を実施する学問を形成しようとした。戦後、フランスに亡命したエリアーデは、戦中のナショナリズムを強く帯びた宗教論をトランス・ナショナルなものに転換する必要性に迫られると同時に、ルーマニア人亡命者組織のイデオローグとしてルーマニア共産党と対峙するためにはナショナリズム的言論を完全に手放すこともできないというジレンマに陥った。一方、エラノス会議の中心人物であったユングも、ナチズム下の群集心理の意識化を説いた言論がナチズムを支持したものと批判され、自身の戦前の学問をトランス・ナショナルなものに組み替える必要性に迫られていた。エリアーデとユングは、戦後世界に適応するため、上記の課題に取り組む場所としてエラノスを必要とした可能性が想定される。
上記に加え、オットーが構築しようとした「宗教史」、19世紀英国とイタリアの宗教研究が如何にエラノスと交差したのか、分析を継続している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在までの成果は本研究の目的に対し、以下の理由から当初の計画を大きく変更することなく実施出来ているものと判断する。
エラノス会議と宗教学の交差に関して、関係資料はすでに収集済みのものが多くあり、その読解と分析に力点を置いて研究を実施することができた。とりわけ重要な資料となるエリアーデとペッタッツォーニの往復書簡については翻訳をすすめており、その分析結果を踏まえた成果を発表できる状況にある。オットーの宗教史に関する資料も概ね整理分析を予定通り進められており、次年度にその分析結果を踏まえた成果を発表できる状況にある。
上記のとおり研究結果の進捗として「遅滞」には該当せず、「順調な進展」と判断した。ただし今後の資料収集は、海外における実施が必要となることが予想され、新型コロナウイルス感染の再拡大などによっては、研究計画の一部を変更せざるを得ない場合が想定される。

今後の研究の推進方策

本課題について、今後は以下の2点を中心に研究を推進する計画である。
(1)昨年度の研究成果を引継ぎ、さらに本年度の研究計画に基づきながら、エラノス会議に参加した論者たちが構想した「民族」「人種」「宗教」「聖なるもの」等諸概念の特質を把握し、ナショナリズム、ファシズム、ユートピア思想、生活改革運動との関連性を中心に考察する。とりわけ、宗教運動と宗教研究、ナショナリズムが交差する局面は、現在の政治状況においても議論される機会が多い。本課題は歴史的コンテクストの整理分析を中心とする研究であるが、今日的な議論も参照しながら、その成果発表をかたちにしていく予定である。
(2)エラノス会議は諸領域の研究者たちが研究成果の発表を目的に集った学術的場であったが、各地で展開していた教会改革運動、宗教刷新運動、ナショナリズムに関連する議論を持ち寄り、それらを分析心理学の理論と混交し、つくりなおした場所でもあった。そのようなエラノス会議と、宗教研究、宗教運動が交差した実態とその歴史的コンテクストを分析し、宗教史学の再叙述を目的とする。

次年度使用額が生じた理由

既述のとおり、本研究は概ね予定どおり進捗しているが、本年も新型コロナウイルス感染拡大の影響に対応しなければならない局面があった。さらに次年度においても、新型コロナウイルスの感染が収束したといえども、再拡大の可能性も考慮せねばならず、本年度と同様の理由によって資料の収集調査にかかわる「旅費」の支出に変更が生じる事態が予想される。その場合は、「物品」として入手可能な資料へ収集の力点を移すことで対応を試みる。
また学会・研究会での研究報告にかかわる「旅費」についても、リモートの導入が継続され、変更が生じる可能性が予測される。そのため、リモート対応のためのPC周辺機器、書籍資料購入として支出を増額することで対応したい。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (9件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] エラノス会議における心理、民族、宗教の展開 : ユングの民族論と分析心理学2022

    • 著者名/発表者名
      奥山史亮
    • 雑誌名

      精神医学史研究

      巻: Vol.26 ページ: 24-28

  • [学会発表] 大戦期エリアーデのナショナリズムと戦後の宗教現象学2022

    • 著者名/発表者名
      奥山史亮
    • 学会等名
      北海道基督教学会第61回学術大会
  • [学会発表] エリアーデにおけるIAHR創設とナショナリズムの問題2022

    • 著者名/発表者名
      奥山史亮
    • 学会等名
      日本宗教学会第81回学術大会
  • [学会発表] 大戦期エリアーデにおける国家統合と国民の追悼の問題2022

    • 著者名/発表者名
      奥山史亮
    • 学会等名
      宗教倫理学会第23回学術大会
  • [学会発表] エラノス会議と宗教学―ユングとエリアーデの関係を中心に―2022

    • 著者名/発表者名
      奥山史亮
    • 学会等名
      日本精神医学史学会第25回学術大会
  • [学会発表] R.オットーにおける「宗教史」理解2022

    • 著者名/発表者名
      藁科智恵
    • 学会等名
      日本宗教学会第81回学術大会
  • [学会発表] IAHRローマ大会におけるペッタッツォーニとヴァティカン2022

    • 著者名/発表者名
      江川純一
    • 学会等名
      日本宗教学会第81回学術大会
  • [学会発表] ペッタッツォーニ宗教史学の起源と展開2022

    • 著者名/発表者名
      江川純一
    • 学会等名
      宗教現象学研究会
  • [学会発表] 近現代イタリアにおけるイスラーム2022

    • 著者名/発表者名
      江川純一
    • 学会等名
      「西洋の世俗と宗教」研究会
  • [学会発表] ファシズム期の宗教史学と人類学2022

    • 著者名/発表者名
      江川純一
    • 学会等名
      国立民族学博物館共同研究会
  • [図書] マナ・タブー・供犠―英国初期人類学宗教論集2023

    • 著者名/発表者名
      R.R.マレット、J.G.フレイザー、W.ロバートソン・スミス、R.H.コドリントン、江川純一・山﨑亮監修
    • 総ページ数
      488
    • 出版者
      国書刊行会
    • ISBN
      978-4-336-07111-8

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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