研究課題/領域番号 |
20K00077
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
津曲 真一 大東文化大学, 文学部, 准教授 (20615033)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ポン教 / シェンラプ・ミボ / チベット / ネパール / 宗教学 / 儀礼 / 神観念 |
研究実績の概要 |
【意義・目的・重要性】 本研究は、ポン教の祖師伝の研究を通じて、そこに記されるポン教の儀礼と神観念について明らかにし、またフィールド調査を通じてそれを視覚化することを目的としている。今日、インド・ネパール・中国のチベット人(蔵族)居住地域では、チベット仏教の信仰が主流となっているが、彼らが行う儀礼の中にはポン教の儀礼に由来するものが少なくなく、また仏教の諸尊とともにポン教起源の神が信仰されている場合も多い。そのためポン教研究は、チベット人の信仰体系や宗教文化の全容を解明するうえで極めて重要である。 研究の具体的な手順としては、先ずポン教の儀礼の基本構造と神観念について最も纏まった記述が認められる、ポン教の祖師シェンラプ・ミボの伝記を取り上げ、ポン教学僧との共同作業を通じてその校訂・翻訳作業を行う。次にネパールのポン教寺院でフィールド調査を実施し、同祖師伝に記述される儀礼が実際に行われている様子を撮影し、また神々の図像の撮影・蒐集を行う。以上の作業を通じて、文献学的研究とフィールド研究の両面から、ポン教の儀礼と神観念の基本構造について明かにすることを目指す。 【2021年度実績】(1)2020年度にデータ化が終えた3つのテキスト(『集経』『光線』『栄光』)のうち、『光線』の校正作業が終了した。また『光線』に記される神々の名称の抽出し、神名のリストを作成した。更に同書に記される儀礼の種類、及びその儀軌に関する記述の抽出を行った。(2)(1)の作業を進める中で生じた疑問点については、wecatを用い、ネパールのポン教寺院の僧侶と5回、音声による意見交換を行った。また、その過程で『光線』の要点を纏めた短いテキストが存在するという情報を得たので、そのテキストを入手し、テキストの入力作業を行った。(3)ポン教の儀軌書を参照しながら『光線』の訳註作業を行い、半分程度の訳註作業が終了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はポン教の祖師伝の文献学研究を進めるのと同時に、ネパールのポン教寺院でフィールド調査を行い、ポン教の祖師伝に記される儀礼が実際に行われる様子を観察・撮影し、また同文献に現れる神々の図像を可能な限り蒐集することで、ポン教徒の信仰世界を視覚化することを目的としている。だが2021年度はCovid-19の感染状況が収束せず、ネパールに渡航してフィールド調査を実施することができなかった。そのため現時点においては「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない。しかしながら、本年度に予定をしていた祖師伝の校訂作業、神名の抽出とそのリストの作成、および同書に記される儀礼の種類、及びその儀軌に関する記述の抽出については、ポン教学僧との意見交換が必ずしも十分に行うことができていないという点を除けば、当初の予定通り作業が進行している。さらに新たに存在が確認された『光線』の要点を纏めた短いテキストについても現在、その入力作業と校訂作業を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今後も『光線』の訳註作業を継続する。また他の2つの文献(『集経』『栄光』)についても校訂作業を行い、これたの文献に記される儀礼と神々のパンテノンに関する記述を書き出す作業を進める。 (2)2022年度中にはネパールでのフィールド調査が可能になるとの前提で、『光線』『集経』『栄光』に記述される神々のパンテノンと儀礼の構造の比較研究を進める。そして、その成果を踏まえた上で、本年度末にネパール・カトマンドゥ市のボン教寺院で現地調査を行い、儀礼や図像について撮影を行う。 (3)現時点では特に研究を変更する予定はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)本研究の中核の一部を成す文献の校訂・訳註作業については、Webcat等を用いてインフォーマントからの情報を得ることで一定の進展を見たが、COVID-19のため、フィールド調査を予定していたネパールおよび関連国への出張できず、また文献調査のために国内の研究機関へ出張することもままならなかった。そのため海外渡航費、およびインフォーマントへの謝金、国内出張費を支出することができなかった。 (2)このため2021年度未使用学と2022年度交付予定額とを合わせて、2022年度に予定しているフィールド調査において集中的かつ効率的に使用したい。 (3)調査関連国においてCOVID-19の状況が改善しない場合、また関連国における外国人の受け入れ状況が変更されない場合についての方策については、インフォーマントおよび研究者と検討する予定になっている。
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