研究課題/領域番号 |
20K00078
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
村山 由美 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (70364966)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 急進的キリスト教 / 田川建三 / ジョン・ロビンソン / 大学紛争 / 世俗化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的である、1960~70年代の急進的キリスト教思想のトランスナショナルな分析に向けて、以下のように2つの方向から分析を進めた。 まず日本については、新約聖書学者の田川建三が1960年代後半の国際基督教大学での大学紛争に教員の立場から関わり、最終的に大学での職を追われるにいたるプロセスを検討するとともに、その思想的意味を明らかにした。具体的には、当時の田川が編集に携わった雑誌『指』に掲載された論考を中心に分析を行い、彼自身が置かれた状況と、研究対象としての聖書ないしイエスを結びつける「類比」の論理を浮かび上がらせ、思想と行動の緊密なつながりを理解することができた。くわえて、田川が対象としてのイエスを特権化し、彼自身が警戒したはずの思想の観念化や党派性を招き入れる危うさがあることも指摘している。この成果を、論文「田川建三における大学闘争と宗教批判―観念と現実のはざま」として発表した。 また、日本における急進的キリスト教思想の位置を世界的な視座から探るため、同時代の欧米圏でのキリスト教思想、とくに英国での思想の展開を検討した。とくに、ジョン・ロビンソンの『神への誠実』(1963年)に注目し、儀礼や戒めを排除した愛ある人間関係にもとづく神との関係を説く神学の潮流が、社会的な世俗化の進展と密接にかかわるものであることを確認することができた。この成果については、日本宗教学会第79回学術大会で「60年代英国におけるカウンターカルチャーと神学」として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、1960~70年代の急進的キリスト教にかかわる論考を収集・整理する作業を進めている。また、大木英夫ら他の神学者・聖書学者らの思想との相違を視野に入れつつ田川建三の思想的特徴を抽出することができたと考える。他方、高尾利数の思想分析についてはまだ不十分な点があり、次年度以降にさらに推進する必要がある。 また、国際比較の前提となる、英国のキリスト教思想の状況についても順調に整理を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の作業をふまえて、田川建三および高尾利数の思想の歴史的位置づけを進めていく。とくに、彼らのマルクス受容のあり方を、吉本隆明ら周辺の思想家との異同にも注意を払いながら検討する。田川のシモーヌ・ヴェイユ論についても分析を行う。 また、英国におけるStudent Christian Movementの展開についての調査を行う。当初計画では、令和3年度に英国での文献調査を行う予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、計画の変更が必要となる。国内の調査でカバーしうる部分での資料収集に尽力するとともに、海外の研究者の協力をえながら研究課題を推進したいと考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、出張による資料調査や研究発表の機会が大幅に制限された。そのため、次年度の研究遂行のために予算を活用すべきだと判断した。 具体的には、各地のキリスト教系大学における大学紛争にかかわる諸資料を収集するための旅費や資料代にあてる計画である。
|