研究課題/領域番号 |
20K00083
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 教授 (60399045)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 偶像 / 巨人 / ユダヤ教 / 聖書解釈 / 偶像崇拝者 |
研究実績の概要 |
初年度となる2020年度は、近現代のユダヤ学の源泉となった19世紀末のドイツ・ユダヤ科学(Wissenshcaft des Judemtum、以下WJ)における諸バイアスを探るべく、WJにおける「キリスト教」のイメージをまとめたものを論文として発表した。また、ラビ・ユダヤ教時代の神秘主義的傾向や呪術的側面をWJにおいてどのようにとらえていかたを探った。こうした考察の結果、WJにおいては、ラビ・ユダヤ教時代のユダヤ教の祭司エリート的側面を評価しなせず、ラビによるユダヤ教運動を民主化運動として理想化する傾向が窺われた。またラビ・ユダヤ教時代の民間信仰的傾向をあくまで、ラビ・ユダヤ教外部からの民間信仰の影響として位置づけ、ラビ・ユダヤ教自体に内在する「民間信仰的」要素を払拭しようとする傾向がうかがえる。この点については、来年度以降論文として発表する予定である。 また、12月には、日本中世英語英文学学会にて、ユダヤ教における「巨人伝承」の様相を、イスラーム、中世英文学、中世騎士文学の研究者とともに、パネル発表を行った。その結果、ヘブライ語聖書における「巨人」には三つの境界性―神と人、自国と他国、生と死-、この中にあることが理解された。時代を超えて、この三つの要素は、強調点を変化させがら顕出しているのではないかということが予想された。このテーマはさらに進展させていく計画である。 ユダヤ教における「偶像」たるものは何かを明らかにするために、ラビ・ユダヤ教文献以降の「偶像」に関する言説を抽出中である。紀元後200年に成立した法律集『ミシュナ』、500-600年頃成立の『タルムード』『ミドラシュ』における「偶像崇拝者」「偶像」に内実を探るために、これらの用語の用法についての簡易データ・ベースを製作中である。上記「巨人」についての言説もこのデータ・ベースの一環である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス感染ン拡大のため、イスラエルでの学会発表、資料収集が不可能であったが、日本で入手できる文献収集・分析をすることができた。また、「偶像」の一端になりがちである「巨人」について、他の分野の研究者とのシンポジウム(日本中世英語学英語文学学会)に参加することができたのは大きな収穫である。「巨人」を手掛かりに、ユダヤ教における中世時代以降の「偶像」の諸相を分析する契機となった。また、「巨人」をはじめとするラビ・ユダヤ教文献での「偶像」に関する言説の収集が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染の状況が改善するまでは、国内外、海外での現地に赴いての研究発表は難しい。改善するまでは、日本国内にて、資料分析を進めていくことに集中する。様々な「偶像的存在」がラビ・ユダヤ教、中世ユダヤ教、ドイツ・ユダヤ科学においてどのような理解をされているのか、その言説を収集し、データ・ベース化した上で分析を加える。特に、これまでまだ十分に扱っていないヘレニズム世界のユダヤ思想家フィロンによる「偶像」「自由」についての言説を読み解く。 また、2021年度には、巨人についてのシンポジウムを拡大して開催し、その研究成果をProcedding として刊行する予定である。新型コロナウィルス感染の拡大により、今なお、学会活動には規制があるが、オンラインによる研究発表等、論文発表に積極的に取り組む所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため海外での学会発表、資料収集等ができず、また国内での学会、研究会もすべてオンライン開催となったため、交通費を使うことがなかった。その代替として、国内で収集可能な資料をできる限り入手、オンライン研究会、学会のために必要な機材を購入したが予定額に達しなかった。2021年度は、コロナ感染の状況が許せば、イスラエルに資料収集のために渡航するほか、国内外の学会発表のための渡航費、また、資料収集、整理、分析のための物品費、謝礼に使用する計画である。
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