研究課題/領域番号 |
20K00083
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 教授 (60399045)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自由 / 偶像 / 巨人 / 律法 / ユダヤ教 |
研究実績の概要 |
1.ユダヤ教における「自由」の概念と、また2.「偶像」の一環としてのユダヤ教における「巨人」伝承の発展について研究を進めた。 1については、近現代のユダヤ思想家の中でも、フロム、レヴィナス、アーレントに注目しながら、その「自由」論の特質を探っている。また、出エジプトにまつわる過越しの祭りの典礼集の中で「自由」「解放」が語られことに着目。出エジプトでは、ファラオへの隷属から唯一の神ヤハウェに仕えることが主眼となるが、なぜ、ヤハウェに仕えることは隷属ではなく「自由」と考えられているのかを出エジプト記についての解釈集(出エジプト記ラッバ)の記事を等中心に分析中。「自由」の対極に、偶像やファラオ等、ある種の権力への隷属が想定されていると考えられるが、神に従うことは、それらと何が違うのかを考察中。 2については、国立民族学博物館山中由里子教授、本学文学部大沼由布教授、関東学院大学髙井啓介准教授、立命館大学文学部岡本広毅准教授、龍谷大学文学部林則仁准教授、コメンテーターに太成学院大学黒川正剛教授を迎え、「巨人の場(とボス)」というタイトルで、古代、ユダヤ、ギリシア、中世ヨーロッパ、イスラーム世界を縦横断し、「巨人」モチーフの展開を追うオンラインシンポジウムを開催した(2021年11月19日)。多くの方々の視聴があり、有意義な成果を得られた。地域、文化、宗教の枠を超えた共通する文化態のようなものが、世界の中では蠢いていたさまが想像される。個別宗教、個別文化圏における研究と同時に、そのダイナミックな動きを連動させる視点の重要性が明らかにされた。現在、プロシーディングとして刊行準備中である。 また、ユダヤ教の律法主義について検討中である。従来、律法主義は、否定的にとらえられていたが、律法は万人に課せられている点で平等であり、ユダヤ教では自由をもたらすものと考えられているからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘブライ語聖書における「巨人」の三つの境界性が明らかにし、また後代のユダヤ教世界における「巨人」に関する様々な解釈群も、この三つの境界性から分類できることを提示し、複雑な聖書解釈世界をとらえる枠組みを提示できた。キリスト教、イスラーム研究の第一人者らとのシンポジウムを成功裡に終えることができた。また、これらの発表内容をプロシーディングスとして刊行する準備も進んでいる。 他方で「律法」についての考察、分析を深めることで、万人に課せられる「律法」がもたらす「平等」「自由」について、聖書解釈、ユダヤ思想家(フロム、アーレント、ヘッシェル、レヴィナスら)の著作を読み進めることができた。 また、今年度の研究を通して、「自由」と関連して、一見その対極にある「律法主義」が実はユダヤ教においては、「自由」の根源であるという着眼点を得た。これは、ユダヤ教の中核である「律法主義」を再考する重要な視点となる点で意義深い。特に、形骸主義として否定的にとらえがちなユダヤ教の清浄規定についての論考も現在準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年11月に開催した「巨人の場(トポス)」のプロシーディングスをなるべく早期に刊行する。 引き継続き、文献研究、論文発表を中心に進めていく。他方、コロナ状況が改善するならば、イスラエルに渡航し、学会発表や資料収集を積極的に行う。 ユダヤ教の「巨人」モチーフについては、アラム語訳聖書の伝統で、特異な解釈をしていることに着目して論考をまとめ、発表する。また、中世、;近現代文献での「自由」「偶像」についての言説を引き続き渉猟する。 更に本年度において重要となるテーマが「律法」と「自由」である。特に生活に根差した「律法」の意義を問う。具体的には、清浄規定、穢れ規定に関するミシュナ、トセフタをそれらが発展したラビ・ユダヤ教時代の生活空間に即して分析を進める。えてして、律法主義の極致として新約聖書で批判されるこれらの清浄規定が、ユダヤ教においては、世界観の基盤であったこと、「聖なること」「清浄なること」という「律法」が何を目指しているのかを、文献、また必要に応じて当時の考古学的知見を入れながら考えたい。 本研究で読み解いた原典資料は、ユダヤ教文献の邦訳資料として随時公開し、ユダヤ教文献へのアクセスが難しい日本社会への還元を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、イスラエルへの資料収集が不可能であったため旅費を支出することがなかったので。また国内でのシンポジウム等もすべて、オンライン開催となったので、交通費を支出する必要がなかった。
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