研究課題/領域番号 |
20K00084
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
栗田 英彦 佛教大学, 公私立大学の部局等, 非常勤講師 (10712028)
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研究分担者 |
KLAUTAU Orion 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (10634967)
碧海 寿広 武蔵野大学, 文学部, 准教授 (80710813)
吉永 進一 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (90271600)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 近代仏教 / 民間精神療法 / 修養 / レイキ / グローバル化 / 心理学化・科学化 / 日本心霊学会 / エソテリシズム(オカルティズム) |
研究実績の概要 |
本年度もコロナ禍により資料収集と対面研究会に大幅な制限がかかったために予定変更を余儀なくされたが、以下の成果を収めた。 代表者の栗田英彦が担当していた『日本心霊』の目次取り作業は完了して誌面分析に進み、その成果はオンライン公開研究会・第1回「プラクティスの近代」研究会で報告した。前年度から新たな課題として立ち上がった民間精神療法・霊性思想と政治的言説の関連については栗田と分担者の吉永進一が研究を進め、『現代思想』陰謀論特集で各々論考を発表した。栗田はさらに太田竜と陰謀論に関する依頼講演を行い、論文集『〈怪異〉とナショナリズム』にも論考を寄稿した。分担者の碧海寿広は近代仏教を含む近代日本宗教の政治との関わりについて『The Bloomsbury Handbook of Japanese Religions』 で発表した。特に重要な成果として、吉永の単著『神智学と仏教』が刊行され、近代仏教と霊性思想の関係史について学会内外に大きく成果を示すことができた。栗田はこの著作の公開書評会に関わり、その学術的意義を紹介した。 吉永と栗田で行ってきた民間精神療法関係資料の収集と公開については、『術と行の近代の近代―精神療法・霊術・宗教 第1回配本』(クレス出版)の復刻シリーズとして刊行することができた。仏教プラクティス関係の目録作成については、分担者のオリオン・クラウタウを中心に進め、『法之雨』の作業が完了した。 国際化については、吉永の発案により、クラウタウを中心に東アジアのエソテリシズム(オカルティズム)研究の国際的プラットフォームEANASEを整備し、第1回国際会議も開催した。本科研はこれの後援を行い、クラウタウが聖徳太子とオカルト言説の関連を国際会議で発表し、栗田は吉永の業績一覧を作成しEANASEのウェブサイトで公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍のために図書館での資料収集、フィールド調査、対面研究会に制限があり、雑誌目録作成・アーカイブ化や綿密な研究上の連携にはどうしても滞りが生じて当初の予定通りに進まなかった部分はある。しかし、前年度に遠隔での複写についてノウハウが確立されたこともあって、資料収集についてはスムーズに進めていくことができた。目録作成を予定していた雑誌は『法之雨』が完成し、修養関連の雑誌についても完成の目途が立っている。また、研究会についてもオンライン方式が定着することで、上述の通り一定数の成果発表を行っている。とくに陰謀論的スピリチュアリティ関連の研究の進展と成果発表は、この1年で大きく進んだ。単著や共著の刊行も進み、本科研の課題と成果を学会内外に公表できた。例えば、碧海による『現代思想』や『ユリイカ』といった芸術・哲学・思想系の総合誌での論考の発表は、宗教研究を超えた分野にも広く知らせていくものであった。さらに、EANASE(East Asian Network for the Academic Study of Esotericism)の確立によって、3年目に行うレイキの国際ワークショップに先駆けて研究の国際化を進めることになった。特に研究協力者の韓相允(東北大学)はEANASEのコーディネーターの一人として尽力しながら、東アジアのエソテリシズム研究の理論的整備を行い、密教とオカルトの関係について事例研究を精力的に進めて本科研課題の遂行に進展をもたらしている。 総じていえば、予定変更を余儀なくされたために遅れはないとは言えないが、新たな課題や企画が一気に進んでその遅れを埋め合わせており、前年度に比べると大きく研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の重要な課題としてレイキ国際ワークショップの開催があったが、担当していた吉永の年度末の急逝により、ヤニス・ガイタニディス(千葉大学)を新たに分担研究者に迎えてこの課題を遂行していくことにした。ガイタニディスは近現代霊性運動研究に精通し、またEANASEのコーディネーターの一人として国際学会運営の能力を十分有しており、レイキ国際ワークショップ担当を引き継ぐ上で適任である。なお、当初は対面でのワークショップを計画していたが、コロナ状況を踏まえてオンラインで実施する。 確保していた国際ワークショップ用の航空費・宿泊費用等の予算は、吉永の蔵書の目録化と蔵書中の貴重書のデジタル化に回すことにする。現在、吉永は、日本の宗教研究におけるエソテリシズム研究・民間精神療法研究の先駆者としての、そして2000年代以降の近代仏教研究の立役者の一人としての評価が急速に高まっている。吉永の研究基盤となった膨大な蔵書は単にエソテリシズム・民間精神療法・近代仏教研究において価値があるというだけでなく、吉永という宗教研究に重要な足跡を残した研究者を知る上でも重要である。そうした理由から、本科研の新規課題として組み入れることになった。 民間精神療法関係資料の集成については、『術と行の近代の近代―精神療法・霊術・宗教 第2回配本』が予定されており、これの刊行を一つの目標とする。目録作成・アーカイブ化については、『修養世界』『精神修養』『新修養』の作業の完成を目指し、可能であれば藤田式息心調和法関連雑誌などその他の近代仏教・民間精神療法関連資料の目次取り作業に着手して完成を目指す。また、雑誌『日本心霊』と日本心霊学会については論文集の編集作業が進んでいる。この刊行もまた本科研最終年度の具体的な成果目標となっている。同時に国内外の各種学会・研究会において成果を随時発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、研究会や調査のための旅費が用いられなかったこと、そして3年目の国際学会のために予算を確保しておく必要があったこと、以上2点が主な理由である。なお、資料調査やアーカイブ化については、複写や郵送を通じて行っているため、旅費以外の経費で計上されている。 今後の主要な使用計画として、従来の目録作成・アーカイブ化作業に加え、当該年度中に亡くなった分担研究者の吉永進一の蔵書をリスト化し、蔵書中の貴重書の電子化を行う予定である。
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