研究課題/領域番号 |
20K00093
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
手代木 有児 福島大学, 経済経営学類, 教授 (20207468)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 清末宣教師 / ティモシー・リチャード / 『万国公報』 / 『時事新論』 / 中国改革論 / 社会進歩の強調 / マッケンジー / 康有為 |
研究実績の概要 |
2021(令和3)年度は,2020年度に行った宣教師ティモシー・リチャードに関する伝記、研究書及び周辺資料等をもとにした準備作業をふまえて、1870年代半ばから90年代半ばに『万国公報』等に掲載されたリチャードの中国改革論等の主要な著作及び関連史料の精読を継続した。特に従来ほとんど検討されていなかったリチャードの中国改革論の集大成である『時事新論』(1894)を中心に精読を進めた。その過程で、昨年度の作業で明らかになった90年代初めからリチャードにみられるマッケンジーの History of the Nineteenth Century,1880 の影響による急激な社会進歩の強調が、『時事新論』にいたって顕著になることを見出した。あわせて昨年度の引き続き、日清戦争後、とくに戊戌変法期にリチャードが交際・接触した知識人・官僚などをリチャードの回憶録などをもとに洗い出し、彼らの著作の中にリチャードの著作に見られる中国改革論や急激な社会進歩の強調が、多大な影響を与えていたことを昨年度以上に把握することができた。とくに康有為の「公車上書」、鄭観応『盛世危言』中の改革提言については、今後の論文作成に向けて、『時事新論』と「公車上書」、『盛世危言』の改革論を対照し康有為、鄭観応におけるリチャード改革論の受容と発展に関するメモを作成した。 総じて、宣教師リチャードの言論に注目する本研究が、清末知識人の思想形成を考えるうえで予想以上に大きな意義を持つことへの確信を一層強めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リチャードの中国改革論を初期の『近事要務』(1881-82)、その後の『新学』(1886)、『時事新論』(1894)、そして清朝への改革提言としての「新政策」(1896)を精読することを通じて、集大成というべき『時事新論』(1894)等の中国改革論において、他宣教師には見られない特筆すべき特徴が見出せることが明らかになった。すなわち、第1に、中国改革論において官僚・知識人との接触経験をふまえてキリスト教色の極度の抑制したこと、第2に、清朝改革派官僚や改革派知識人のニーズに応えうる中国改革プランを、改訂を繰り返しつつ精力的に提示したこと、第3に、西洋近代の発展と伝統中国の衰退の原因を、「生利」と「分利」という的確かつ象徴的表現で説明したこと、第4に、マッケンジーのHistory of the Nineteenth Century,1880 の影響をうけ西洋近代における急激な社会進歩を強調し、人類社会が急激な進歩を遂げる可能を提示したこと、の4点である。あわせてこうしたリチャードの中国改革論が日清戦争後の変法運動期に、張之洞、鄭観応、康有為、陳熾らをはじめとする官僚・知識人に他宣教師をはるかに上回る絶大な影響力をもったことを、彼らの著作等から少なからず見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記の到達点をふまえ、さらに未読了のリチャードの著作やリチャードと交流のあった官僚・知識人の著作を可能な限り精読しつつ、今年度夏休みから本研究に基づく第一論文として「ティモシー・リチャードの中国改革論とその影響」(仮題)の執筆を開始し、2023年度中の完成を目指す。また引き続き第二論文「ティモシー・リチャード訳『泰西新史攬要』の衝撃」(仮題)を執筆する予定である。論文執筆と並行して、可能であればコロナ禍により実施が遅れている中国でのリチャードの事蹟に関する現地調査を行い、その成果を論文に盛り込みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により中国での現地調査が実施できなかったこと、および国内の学会、研究会が中止またはオンライン開催となったことなどにより、国内外への旅費が執行できず、くわえて調査用のパソコン、カメラ等備品の購入を先送りしたため。またコロナ禍により学生アルバイトによる資料整理の実施を先送りしたため。
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