研究課題/領域番号 |
20K00096
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長尾 伸一 名古屋大学, 経済学研究科, 名誉教授 (30207980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 近代思想史 / 啓蒙思想 / 科学史 / 社会思想 / ニュートン主義 / 複数世界論 |
研究実績の概要 |
本年度ではとくに複数世界論の深化を図った。第一に、ニュートン主義と複数世界論の関連を再検討して、複数世界論がニュートン主義の普及に貢献したのみならず、18世紀における知的空間の構造化にあたって、科学主義と宗教との連関の点で重要な役割を果たしたことを確認した。 第二に、可能世界論の思想史的な再検討を行い、可能世界と実世界、不可能世界の関連を分析した。その結果、可能世界が虚構空間と深くかかわるとともに、20世紀科学の展開によって、可能世界と実世界との関連が明らかになってきたことを示した。実世界に視野を限定し、それのみを扱ってきた近代科学は、ドゥンス・スコトゥスが立ち止まった地点を超え、何らかの形で可能世界と名付けることができる世界の数学的性質から実世界を導く学問となっていきつつあるように見える。そこではクリスティアン.ヴォルフが考えていたような可能世界としての虚構は現実と逆転し、現実こそが「虚構空間」の映像となると考えられる。 また第三に、可能世界と実世界の双方から区別される不可能世界が人間社会の構成にとって不可欠であり、それが可能世界の構造に根差している可能性があることを示した。不可能世界で仮想的に生きる人間の社会では、実世界での個体の実力に基づいて社会を組織する類人猿などの社会的動物には見られない大規模社会が実現され、眼前に存在しない未来や過去や遠方の労働力や財を配分される。この他の社会的動物にはない人類の大きな力は、たんに実世界の対象を技術的にコントロールする知性だけでなく、実世界と可能世界と不可能世界を自由に行き来して生きる能力にも依存している。科学による実世界からのディマーケーションに伴い、芸術の世界として狭く理解されるようになった虚構空間は、社会生活において「想像力の力」に基づくはるかに大きな世界を構成していると考えられるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では海外資料調査が不可能だったため、図書館所蔵資料及びデジタル資料を用いて研究を行い、所定の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
海外渡航が可能になり次第、延期してきた海外資料調査を行って実証研究をさらに深化させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型肺炎のため本年度に計画していた海外資料調査が不可能となったため未使用額が生じた。これについては次年度に実施することとする。
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