研究課題/領域番号 |
20K00096
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長尾 伸一 名古屋大学, 経済学研究科, 名誉教授 (30207980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 科学史 / ニュートン主義 / 啓蒙思想 / 近代思想史 / 社会科学史 / 複数世界論 |
研究実績の概要 |
本年度は複数世界論中心に置いてケンブリッジ・プラトニスト、バトラー、トマス・リード、トマス・チャーマーズの著作を取り上げ、イギリス哲学において科学の発展が宗教的文脈の中でどのように捉えられてきたかを検討した。その結果、以下のことが明らかになった。 18世紀から19世紀中葉までの天文学的な複数世界論は、類推による推論としては成り立ったが科学的実証を欠いていた。それが流行した要因は科学と神学を結びつける時代の思考の形而上学的、神学的枠組みにあり、そのことが反対にニュートン主義などの科学主義を補強していた。そのため18世紀的世界が終わって「地上の変革」(ロベスピエール)が課題となり、また知識の諸領域の分画化の進展によって自然神学が衰退すると、複数世界論は公の言説から姿を消していった。複数世界論は正統教義との矛盾を抱えつつ、科学と宗教を結びつける結節点の役割を果たし、いまだ信仰が人口の大半をとらえている時代に、科学的知識の正統性を保証し、科学的営為の遂行を保証した。信仰にとっては、いくつかの難点があるとはいえ、増大する科学的知識の権威を世俗化が進む社会の中で自らの地位を安定化させる意味を持った。とはいえ科学が独自のルールに従う自律性を獲得した18世紀以後の世界では、宗教が科学の発展の直接の推進力であったとは考えられない。多くの場合科学は宗教と対立しはしなかったが、信仰から科学が発展したのではなく、独自に発展していく科学と信仰の共生関係が保証されたこそが重要だったととらえられるべきである。科学にとって信仰にとっての有用性の主張は、社会内での自らの地位を高めていく手段となった。 反対に信仰にとっては、熱狂主義を抑制して既成の体制を保護する武器となるとともに、世俗していく社会の中で信仰を側面から擁護する支柱として科学の言説が役立ったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症の影響で期間中に予定していた海外実地調査が実施できなかったため、その点については進展していないが、それ以外については順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では繰り延べていた資料研究の方法を、実地調査実施の可能性も含めて検討しつつ、同時にデジタル資料等の手法も使いながら進行させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の影響で期間中に予定していた海外実地調査が実施できなかったため。
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