研究実績の概要 |
(1)今年度はバルベラックの『娯楽論』全4編のうち第1編第1章から同第3章の途中までの下訳の訳文修正を行った。初版と第二版との異同を確認し、文献表記の統一を図った他、ネストレ=アーラント『ギリシャ語新約聖書』第28版(Nestle-Aland, Novum Testamentum Graece, 28.revidierte Auflage)に基づき、『娯楽論』で引用された新約聖書原典の文章を確認した。また、バルベラックが『娯楽論』で引用・参照した文献情報を調査した。 (2)研究課題に関連した原稿(事典項目)の依頼を受け、キケロの義務論の18世紀道徳思想への展開について調査した。キケロにおける義務(officium)は「高潔性(honestum)」と「有益性(utile)」を包含する概念である。18世紀当時の英語のdutyには古代の人々がhonestumと呼んだもの――人間行動のうち正しいもの(right)や立派なもの(honorable)――あるいは「他者への義務の履行」に限定されている。当時のブリテンの知識人は道徳の一般的基礎としての「高潔性」をめぐりさまざまに論じているが、義務を「高潔性」に限定する議論は、グラーズゴウス大学道徳哲学教授(アダム・スミスの後任)であったスコットランド教会牧師トマス・リードの「全般的な善」概念にとりわけ顕著に示されていることを指摘した。また、研究課題に関連した著書の書評の依頼を受け、ジョン・ロバートスンの啓蒙研究について調査した。これらの事典項目および書評の公表は、次年度以降になる予定である。
|