『葉隠』の説く武士道については、その没我的忠誠が背後に有する矛盾や意味を、すでに多くの先行研究が指摘してきた。本研究の成果はこうした知見の蓄積に連なるものだが、この問題を凝縮する局面として、最終的には主君への「諫言」に着目したことにより、「忠誠」の具体的な機微に即しつつその倫理的本質に迫ろうとし得た点で、新たな意義を有している。これを今後、「誠実」とは何かという視点から、同時代の諸思想に対する分析としても開いていくことが出来れば、ひいてはより広く日本社会にとっての倫理を模索する営みにも、資するものと期待される。
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