研究課題/領域番号 |
20K00101
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
後藤 正英 佐賀大学, 教育学部, 教授 (60447985)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | メンデルスゾーン / レオ・シュトラウス / フェミ二スト神学 / ユダヤ教 / 宗教 / 魂の不死 / 国際研究交流 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
10月に「アメリカのユダヤ教における女性」をテーマとしたオンライン研究会を開催した。石黒安里氏、北美幸氏、後藤の3名が研究発表を行い、佐藤貴史氏、本多彩氏、寺田由美氏にコメントをしていただいた。 私は「近現代ユダヤ思想におけるジェンダー論」と題した発表を行った。ジェンダーやフェミニズム思想のアプローチに注目することは、過去の思想家の文言(寛容思想を含む)に新たな光をあてるうえで重要な意味がある。 二つの論文を刊行した。一点目の論文「啓蒙思想は魂の不死をめぐって何を問題としたのか」は、2020年の西日本哲学会のシンポジウムでの発表原稿を推敲したものである。現世肯定の風潮を強めていた啓蒙主義の時代において、魂の不死がどのような意味で問題となっていたのか、という点を明らかにした。 二点目は、加藤泰史氏の編集による『スピノザと近代ドイツ』に掲載された論考「スピノザとメンデルスゾーン -汎神論論争が抱える「神学・政治問題」」である。ここでは、レオ・シュトラウスの問題提起を受ける形で、汎神論論争には、形而上学の論争だけではなくて、宗教的・政治的論争の側面があったことを指摘した。この論考を執筆する中で発見があった。メンデルスゾーンにとって、理性こそは異なる意見をもつ者が共通理解を深めるための場所であった。しかし、汎神論論争では、当の理性概念自体が対立を生み出す論争の対象となっていた。ヤコービは、メンデルスゾーンを含むベルリンの啓蒙主義者たちが、理性と自分たちの立場を一体化し、理性の名のもとに自分と異なる見解の人々に対して不寛容である点を糾弾した。それに対して、メンデルスゾーンは、ヤコービのことを、信仰の名のもとに理性の口を封じる非合理な思想家であると批判した。双方とも、それぞれの仕方で言論の自由を追及したが、理性概念の理解や文化的コンテクストの違いが意見の対立をもたらすことになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文執筆、研究会の開催、オンラインでの海外学会への参加など、ある程度の成果を挙げることができた。しかし、本年は病気治療の必要性が発生したため、研究の速度がやや遅れている。さらに、コロナ禍のため、当初の計画のような海外渡航を行うことができていない点も課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、寛容思想の古典として知られるメンデルスゾーンの『エルサレム』の翻訳完成を目指したい。寛容論の研究でも知られる現代ドイツの政治哲学者フォアストの共訳プロジェクトも進行中である。ジェンダー思想からの近現代ユダヤ思想の読み直しについては、丸善出版で編集中の『ユダヤ文化事典』の事典項目の中でも言及する予定である。前述のように、病気治療のため、やや研究の速度が落ちていることや、来年くらいには海外渡航の条件がさらに緩和されるかもしれないとの見込みから、当初の研究期間を1年間延長する可能性も検討している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
病気治療の必要性が発生したため、研究に若干の遅れが生じたことと、徐々に海外渡航の条件が緩和される状況を予想して、研究を1年間延長する可能性を考えているため、使用額を残すことにした。
|