研究課題/領域番号 |
20K00101
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
後藤 正英 佐賀大学, 教育学部, 教授 (60447985)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カント / 寛容 / フォアスト / 啓蒙 / ポール・ガイヤー / メンデルスゾーン / ユダヤ教 / リトアニア |
研究実績の概要 |
内容面の進展としては、進歩思想や学習過程論と関連づけることで、寛容論に関する新たな論点を獲得することができた。来年度刊行予定の『日本カント研究』でポール・ガイヤーの著書Reason and Experience in Mendelssohn and Kant(Oxford University Press, 2020)に関する書評を執筆し、フランクフルト大学のライナー・フォアストやエヴァ・ブッデベルクによる論考を検討することで、メンデルスゾーンの思想の中に諸宗教が優劣なしに共存するための枠組みを読み取ることができた。ガイヤーは、宗教の多様性については、カントよりもメンデルスゾーンが先進的な理解をもっていることを指摘している。 ここで重要になってくるのは、人類の進歩に関する問題である。ガイヤーも指摘するように、メンデルスゾーンは、個々人の発展には様々なリズムとスケールがあるので、一律な形での進歩論は展開できないことを主張した。メンデルスゾーンにおいて、個人の学習の多様性と宗教の多様性は密接に関係している。宗教には、それぞれに固有の発展がある以上、諸宗教の間で優劣を論じることはできないのである。この場合、進歩史観と学習過程論は区別されることになる。学習過程論の位置づけについては、さらに検討していきたい。 上述の成果以外に、寛容論に関する今後の応用可能性を展望するべく、リトアニアにおける東洋の宗教の受容形態に関する英語論文の翻訳と解説を発表し、現代アメリカのユダヤ教におけるフェミニズム思想の潮流について研究報告をおこなった。これらの研究は、宗教理解における他者性や多様性の問題を扱う点で、18世紀の寛容思想研究を強化するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には予想していなかったパンデミックのため、海外出張の代わりにオンラインでの学会参加を継続しつつ、研究を進捗させてきた。研究を進める中で新たに明らかになってきた論点としては、寛容と進歩思想との関係を挙げることができる。その内容の一部については今年度の研究実績の概要の中で説明した。 さらに、本研究では、メンデルスゾーンの寛容論の現代的意義を検証するために、フランクフルト学派・第三世代を代表する政治哲学者フォアストの寛容論を参照してきた。来年度、フォアスト氏主催の会議に招聘されることになったので、正義と寛容の関係に関するフォアストの議論を整理する機会を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
5月には、フランクフルト大学のフォアスト教授とブッデベルク博士の主催による「批判理論と文化の差異」に関する日独会議に招聘されている。この会議では、フォアストの寛容論の日本の政教問題への応用可能性について報告する予定である。その後、デッサウへ移動し、当地のメンデルスゾーン協会の関係者と意見交換を行ない、資料収集を実施する。 7月には、分担者として参加している別の科研費プロジェクトにより、ローマで開催される国際18世紀学会に参加する。その際に、本科研費に関連のあるパネルも聴講し、研究者との意見交換をおこなう。 9月には、東京外大で開催される日本宗教学会にて、寛容と進歩思想の関係について研究発表をおこなう予定である。 以上の研究発表と併行して、出版のために原稿を整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回の科研費の申請後にパンデミックが発生し、当初予定していた海外出張が中止になった。代替措置としてオンライン学会に参加していたが、今年度の後半になって、海外出張のために確保していた予算を出版費用に充当し、研究成果を書籍として出版することで広く社会に公開することが望ましいとの考えをもつに至った。そのため、出版の準備時間を設けるために研究期間を延長し、出版費用を来年度に向けて残すことにした。
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