5月に、フランクフルト大学の研究機関(Normative Orders)で開催された日独国際会議「批判理論と文化の差異 日独の対話」に参加し、ドイツ語による研究発表を行なった。日独から総勢14名の研究者が参加し、フランクフルト学派の批判理論の視点から様々な社会問題について議論を行なった。私の研究発表では、ライナー・フォアストの研究を念頭に置きつつ、戦後日本の政教分離訴訟を分析した。日独双方の事例において、少数派から信教の自由に関する訴訟が行なわれた場合、多数派の側は自らの行為は一宗教ではなく習俗や文化であると反論する傾向が見られた。民主的国家では、主張の当事者が少数派か多数派かという観点にとどまらず、主張の根拠づけに関する合理的な正当化が重要であることを再確認する機会となった。 6月には、バルト諸国で新宗教研究センター(CESNUR)と欧州民族宗教協会(ECER)の大会に参加し、ヨーロッパの少数派の宗教をめぐる現状について考察を深める機会をもった。欧州では、キリスト教が圧倒的な多数派であるため、土着の自然宗教には、少数派として、多数派の伝統宗教と同等の地位が認定されない傾向がある。啓蒙期のユダヤ教と歴史的文脈は大きく異なるが、少数派の宗教と国家との関係については類似の問題を指摘できる点があり、今後の研究への展望を開くものとなった。 今回の研究期間中にはコロナの感染拡大があり、予定していた多くの学会参加が中止となった。その余剰分の予算で、研究成果を単著として刊行することにした。晃洋書房より『不寛容と格闘する啓蒙哲学者の軌跡 モーゼス・メンデルスゾーンの思想と現代性』として刊行した。過去の論考を単著にまとめる過程で、メンデルスゾーンの啓蒙思想を不寛容と格闘する闘争的性格において捉える解釈が明確になり、進歩的教育思想と寛容の関係という新たな研究課題も浮かび上がってきた。
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