研究課題/領域番号 |
20K00102
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
西山 雄二 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (30466817)
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研究分担者 |
亀井 大輔 立命館大学, 文学部, 教授 (80469098)
宮崎 裕助 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (40509444)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ジャック・デリダ / 脱構築 / 責任 / 現代思想 / 現代哲学 |
研究実績の概要 |
2020年度はオンライン配信の形式で連続セミナーを計9回開催し、動画記録を編集してネット上で公開したことが予期せぬ豊かな成果だった。視聴者は研究者のみならず、学生や一般まで幅広い層に及んだ。セミナーの内容は、デリダの著作『ハイデガー 存在の問いと歴史』、『ゲシュレヒトIII』、『スクリッブル』、『偽誓と赦しI』、バルバラ・カッサン『ノスタルジー』の合評会、最新の研究書である宮﨑裕助『ジャック・デリダー死後の生を与える』、松田智裕『弁証法、戦争、解読 前期デリダ思想の展開史』の合評会、個別の研究発表「初期デリダにおけるA・コイレのヘーゲル研究の意義」、「なぜ脱構築しなければならないのか?」である。 研究成果の公刊は好調で、西山はフランス語のウェブ雑誌revue ITER(第2号)にて、「今日、デリダを翻訳する」という特集を編纂し、各国の翻訳者たちの論考を掲載した。彼女/彼らの翻訳の経験、デリダ思想の受容の動向などが綴られるとともに、脱構築思想が翻訳の理論と実践と密接に関係していることがあきらかにされた。亀井は『ハイデガー 存在の問いと歴史』の日本語訳を刊行し、1960年代のデリダがハイデガーの存在の問いにいかに取り組み、脱構築思想の着想をいかに得たのかを示した。宮﨑の研究書『ジャック・デリダ』をめぐっては、合評会が2回開催され、「死後の生」という鍵語とともにデリダ思想のアクチャリティ(民主主義、真理と嘘、動物と生政治など)が提示された。東京都立大学の「人文学報」にて、「ジャック・デリダの脱構築の現在」「ジャン=リュック・ナンシーにおける芸術の問い」という特集を組み、翻訳を計5本掲載した。これらの論考はいずれも、講義録などの新資料の内容を盛り込んだ研究の成果であり、脱構築思想の今後の可能性を掘り下げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新型コロナウイルス感染症拡大のため、海外渡航が不可能であったため、フランスのデリダ資料庫における遺稿・草稿の調査・分析、国際会議「Derrida Today」(フランス)への参加が実現できなかった。海外・国内への旅費が使えなかった分、図書・資料、オンラインセミナー用の機材に予算は充てられ、有効に活用された。 計9回開催したオンライン配信の連続セミナーは好評で、各回30-80名ほどの参加者がいた。また、動画記録は適宜編集して、ネット上で公開しており、研究成果の新たな発信方法となっている。 翻訳に関しては、単行書として、デリダの講義録『ハイデガー 存在の問いと歴史』、カトリーヌ・マラブーの論集『真ん中の部屋』を刊行することができた。また、デリダ『死刑II』『生死』『メモワール』、マラブー『抹消された快楽』の翻訳作業が進められた。 2024年はデリダ没後20周年にあたるが、この年に向けて、『デリダ読本』(法政大学出版局)の準備を開始した。デリダの思考の核心やその哲学史上の存在意義をあらためて明確にし、さらに現在や将来の世界においてどのような新しい可能性をもつのかについて、「脱構築」思想のラディカルさ、そのポテンシャルを再発見し、再主張するような論集となる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症拡大のため、今後も海外渡航や海外研究者の招聘がきわめて困難であることが予想される。本研究の目的のひとつは国際的なネットワーク形成である。海外のデリダ研究者と連携して、脱構築研究の双方向的なネットワークを整えることが目指されている。2021年度はカトリーヌ・マラブー教授(キングストン大学)のオンライン講演会を9月に予定している。最新著『抹消された快楽』をめぐる講演をしていただくとともに、脱構築のアクチャリティをめぐる討論会を予定している。 関連する催事としては、9月に東京都立大学にて開催される日仏哲学会にて、西山はシンポジウム「哲学者の講義録を読む」を予定している。近年、哲学者の講義録が続々と刊行されており、日本でも翻訳が出揃っている。ベルクソン、メルロ=ポンティ、フーコー、ドゥルーズ、デリダの講義録をもとに、教育の現場に立つ哲学者の姿に着目し、互いに比較・考察をおこなう。 本研究メンバーが世話人を務める「脱構築研究会」では、今年度オンライン・ジャーナルを2022年3月に創刊する予定である。独自のジャーナルを編纂することで、今後は論考、翻訳、書評などの形式で研究成果をより柔軟に発信していく。 翻訳に関しては、デリダ『死刑II』『生死』『メモワール』、マラブー『抹消された快楽』の作業を引き続き進め、順次刊行していく。翻訳刊行された際には、これまで同じく、合評会を開くことで、研究成果を一般に広く公開するように努める。 デリダ没後20周年の2024年に向けて、『デリダ読本』(法政大学出版局)の準備を継続させる。大御所から若手まで日本のデリダ研究の総力を結集し、新たにデリダ思想を蘇らせる土台を築き上げるこの論集は本研究の最終的な成果の一つとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍で海外渡航ができなかったため、フランスのデリダ資料庫における遺稿・草稿の調査・分析、国際会議「Derrida Today」(フランス)への参加が実現できなかった。次年度使用額については、図書・資料、オンラインセミナー用の機材に充当される。
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