研究課題/領域番号 |
20K00104
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
松本 郁代 横浜市立大学, 国際教養学部(教養学系), 教授 (60449535)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国土観 / 異国観 / 清瀧権現 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究目的の一つである東アジア地域における「日本」としての「国土観」に関する研究について、神話や言説との関わりを通じて分析を行った。具体的には、天地開闢・国土創世に関わる中国と日本に共通する神話として、盤古神話を一つの事例として取りあげた。盤古とはその身体によって天地を押し開き、死後は身体の各部位が大地や自然となる、万物を形成した神である。その記述は三世紀頃の呉の時代に成立したとされる。日本における盤古は、牛頭天王や盤牛王やスサノオなど神仏と習合し、大陸由来の「異神」として祀られた。一方で、鎌倉時代末期に成立した『釈日本紀』では、神代巻におけるイザナギ・イザナミの国土創世神話と対比的に盤古による天地開闢の解釈が進められ、盤古が独立した中国の神話として捉えられていた。この点については、論文「神仏を生む中世の神代巻―大日霊貴から天照、大日霊から大日如来へ」のなかで考察を試みた。 盤古という天地開闢の大陸神が、日本の神仏と習合したり、大陸神として独自性が認識されるなどの事例は、大陸由来の神仏が本朝において統一的な受容のあり方ではないことを示している。東アジア地域を背景に形成された日本の国土観は、大陸との連続性のなかに見い出されるが、その国土観は、大陸神を受容する政治的・文化的範囲において成立していることを示唆している。特に、鎌倉時代における日本と大陸の関係は、モンゴルの帝国化と元朝の成立に伴い、国内で「異国」の認識が高まった時期にあたる。神仏が大陸に対峙する過程のなかで形成された異国観が内なるナショナリズムを喚起するなかで、国内における神仏は逆に観念としての「異国」という範囲において影響を受け、新たな神話や習合が生まれた。この点については、空海が唐の青龍寺から勧請した清瀧権現に関する資料の読解を通じて、国土観や鎮護国家思想に関する分析を現在進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度にあたる2020年度はCOVID-19のため、国内・国外での資料収集や現地調査が全く行えず、研究テーマに関する盤古や清瀧権現などの資料を思うように集められなかった。そのため具体的な分析に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、鎌倉時代中期におけるモンゴルの帝国化に伴って国内に出現した「異国観」の様相から、大陸と本朝を結ぶ「国土観」についての分析を進めていく。「研究実績の概要」に示したように、現在調査中の空海が唐の青竜寺から勧請した清瀧権現は、聖宝によって上醍醐に祀られた大陸由来の神である。鎮護国家の密教修法の一である請雨経法を空海が修した際に神泉苑に現れるなど、鎮護国家の護持神として位置づけられている。龍神はインド神話や仏教、神道との習合がみられる多様性をもつ神であり、また、鎌倉時代には日本の国土形成にも関わった神であることも知られるが、本研究では、異国観を背景に形成された醍醐寺における淸滝権現の分析を通じて、清瀧神と大陸(異国)との関係、伊勢、アマテラスとの関連性を分析し、国土観について考察を進めていく。 具体的には、醍醐寺の僧で祭主家の大中臣氏を出自とする通海が撰述した『清瀧権現講式』の資料調査および分析をしながら、鎌倉時代における伊勢神宮の密教化と、「異国観」に映し出される「国土観」について分析を進める。 国内調査に支障がなくなれば、清瀧権現に関する資料調査を進める。緊急事態宣言の有無にも左右されるが、まずは通海撰『清瀧権現講式』の資料調査を経て正確な解読を行い、その意味を読み解いていく。また、醍醐寺における通海の『清瀧権現講式』を起点としながら、同時に大陸の歴史的状況を把握した上で、国内における認識との乖離点を追究し、そこに内なる華夷意識を読み取ることにより、大陸と本朝との理念的関係を位置づけていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はCOVID-19のため、国内・国外での資料調査が全く行えず、次年度資料が生じたため、旅費として使用する予定である。
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