研究課題
昨年度の研究では、大陸の国土創世神である盤古神に関する論考をつうじて、日本の国土観に対する大陸神の影響は、大陸神を受容する政治的・文化的範囲において成立する点を明らかにした。この点を受け、今年度は神仏を介した異国に対する国土観を相対化するため、いわゆる蒙古襲来時における異国調伏御祈の神として解釈された天照大神の登場と、密教修法であり天皇を本尊とする即位法における神仏との関わりについて考察を進めた。中世における神仏が異国(大陸)と接点をもつ契機は渡海や対外戦争にあり、その多くは説話によって語られる。しかし、中世では氏やイエの氏神や祖神が氏やイエを守護する本尊となるが、その権能と享受圏の関係を考えた時、ある氏の国土観とはその氏が治める国家であり、必ずしも天皇を中心とする国土観ではない点を明確にした。一方、天皇の即位灌頂では仏教的世界観が天皇の存在を支え、本尊である大日如来を本地とする皇祖神の天照大神が天皇の即位を立証したように、中世の本尊とは常に神と仏による二重のイデオロギーを孕んでいた。また、本尊が衆生の祈りや願いを受け入れる背景には、本尊の性質を説明する本生譚や神話を含む世界観がその方向性を決定する。その範囲は特定の地域や国土ではなく、過去や未来の時空に措定されている。そのため、国土観はこれらの世界観とやはり二重のイデオロギーをもつことになる。本研究では大陸に対する空海が唐の青龍寺から勧請した清瀧権現に着目し、特に、醍醐寺僧で祭主家出自の通海が撰述した『清瀧権現講式』『大神宮参詣記』の読解を通じ、蒙古襲来時に大陸と対峙するための神仏祈誓の過程において、皇祖神としての天照大神が仏法によって救済される過程を導いた。そして、本朝の神が異国の国土を包摂しつつも、異朝との違いを強調する本朝中心の華夷思想が、異国と日本と隔てる国土観を生み出す言説的な接続点にあることを見出した。
3: やや遅れている
2021年度もCOVID-19のため、特に国外での資料収集や現地調査が行えず、研究テーマに関する資料の十分な調査ができなかった。
醍醐寺僧で大中臣氏を出自とする通海による撰述書の分析をつうじて、中世日本における国土観形成と華夷秩序に関する考察を試みる。初年度に考察した古代中国の国土創世の盤古神話は大地を形成する神話であるが、華夷秩序は中国王権とも密接に関わる。そこで本年は、引き続き通海撰述の『清瀧権現講式』『五社講式』『太神宮参詣記』の解読をしつつ、通海撰述書に登場する三才思想と関連させた神仏関係について分析を進める。中国の三才思想は『説文解字』にも登場するが、中世日本の古辞書にも記述されている。本研究では、三才思想が日本に伝来した出典を追究しながら、通海がこの説を用いて天地人の三才の関係を伊勢曼荼羅思想に相応させた可能性について考察しながら、異国観における大陸思想の受容として分析し、本朝の国土観のなかで神仏と交差する点を明らかにしていく。今年度が最終年度であるが、コロナのため文献の調査活動が計画通りに進んでいない点が懸念材料としてある。現状のなかでできる限り調査を進めていく。
2021年度もCOVID-19のため、国内・国外での資料調査が思うように行えなかったため、来年度は調査旅費および調査の成果を踏まえた研究に必要な経費として使用する予定である。
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Edited by: Fabio Rambelli and Or Porath『Rtuals of Initiation and Consecration in Premodern Japan:Power and Legitimacy in Kingship, Religion, and the Arts』Publisher: De Gruyter
巻: ー ページ: 173-195
『横浜市立大学論叢 人文科学系列』
巻: 73(1) ページ: ー