研究課題/領域番号 |
20K00105
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
辺 英浩 都留文科大学, 文学部, 教授 (50264693)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 東学 / 天道教 / 儒教 / 仏教 / 開闢 |
研究実績の概要 |
本研究は自生的、土着的近代思想として韓国の東学、天道教をはじめとした開闢を唱える諸宗教を比較思想史的視座より世界史的意義を明らかにしようとするものである。具体的には東学(1860年創始、1905年天道教と改称)を中心とした開闢諸思想・宗教がその検討対象であるが、東学が東学農民戦争や三・一独立万歳運動を主導し、植民地時代には文化啓蒙運動を推進したことに現れているように、宗教思想でありながら積極的な現実参与もその特徴である。そのため宗教思想の構造と現実への参与との両面からの研究が必要である。 初代教祖崔済愚、二代教祖崔時亨の思想と東学農民戦争にはすでに一定の研究蓄積があるが、三・一独立万歳運動を主導した孫秉熙の思想についてはさほど研究蓄積がない状態である。本年は孫秉煕の著作の読み込み作業と三・一独立万歳運動との関係について研究を深めた。孫秉煕はキリスト教、仏教指導者に働きかけ1919年の民族代表の独立宣言書発表を主導したが、韓国では三・一独立万歳運動への高い評価とは異なり孫秉煕への評価がさほど高くない。その原因はいくつかある。孫秉煕は天道教の出発に際して「人乃天」を標語として新しく掲げたが、この天は法則的天であり人格神とはみなさせないという誤解があることがその主たる要因である。天について、中国の古典儒教、朱子から朝鮮朱子学の大家までを検討し、その延長上に東学の天観念を検討し、韓国固有の人格神観念の表明であることを明らかにしていった。また孫秉煕は政治と宗教とを結合させ教政双全とよぶが、政治と宗教の分離を近代とみなす西洋近代の政教分離観念からは前近代的宗教とみなさざるをえなくなるが、政教分離は特殊西洋的事情の産物であり、教政双全がただちに前近代的ということにはならないという問題提起を行った。今後深めていくべき論点である。 崔済愚の思想の試訳作成は継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はコロナの流行により国内外の移動が極端に制限されるという前例のない状況となり、最後までこの制約がかかり続けた。そのため韓国への現地調査は断念せざるをえず、この分野の研究者たちとの学問的交流も大きな制約を受けざるをえなかった。孫秉煕の「人乃天」の天は、実践的修行などにおいては明らかに人格的天としているが、孫秉煕の著作には確かに法則的天ともとれるところがあり、そのことを専門家たちと論文や議論を通じてより明らかにしていく計画であったが実施できなかった。政治と宗教との関係なども同様である。 国内的移動も制約を受けた。2021年度は年度末までにはこの制約は解除されていくと推測され、またオンラインでの交流に習熟してきたため、zoomなどによる代替措置が取られつつあり、2021年度は計画とおりに進行できると想定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は孫秉煕の思想を、法則天と人格的人との構造を著作の中から内在的に明らかにしていく。ただ孫秉煕は代表作である『無体法経』でこれを体系化しているが、仏教的色彩が濃厚で極めて難解であるため、専門家たちとの議論が不可欠であり、そのための研究会を実施する。また政治と宗教との関係については教政双全をより深めていくが、さらに日本滞在中に近代日本、近代西洋文明を実際に見聞したことから、宗教家でありながら祖国の政治経済の近代化構想についての著作を数編発表しており、その研究も欠かせない。特に新しい地方政治制度の細部までを提案しており、これは歴史学者、経済史学者たちの幅広い研究を踏まえねば検討困難であるが、そこまで射程を伸ばしていきたい。 【令和3年度】海外出張を2022年2月ごろに予定している。8~9月はまだコロナによる出国が困難であると予測されるため、zoomでの会議を実施する方向で検討していく。国内出張もすでに所属学会でzoomでの会議が行われていることから、代替的オンラインでの実施も含めて検討していく。 【令和4年度】海外出張を2022年8月、2023年2月ごろに予定する。適宜zoom会議を併用する。 翻訳試訳は継続し、令和4年度に出版をめざす。
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