最終年度である2022年度は、研究史上重要な知見を提供した以下の論文を刊行できた。代表者の大川真は「一八四八年改正オランダ王国憲法と日本の皇統論」(『日本思想史学』54、査読有、2022年、117-133頁)を発表した。一八四八年改正オランダ王国憲法は日本で初めに逐条訳された欧米憲法であり、旧皇室典範の成立において重要なレファレンスの一つであった。当該論文では、当時の思想家や法務官僚によるオランダ王国憲法の訳出をつぶさに検討することにより、その訳出のなかに「正統」に関わる皇統論が垣間見えることを解明した。また分担者の齋藤公太は「「女帝」の言説史 : 神功皇后論と継嗣令第一条の解釈を中心に」(『神戸大学文学部紀要』50、査読なし、2023年、119-143頁)を刊行した。当該論文は、近世の水戸学者・安積澹泊、栗山潜鋒、闇斎学者・遊佐木斎らの神功皇后論、また近世・近代の国学者らの継嗣令の解釈を検討し、近世においても女帝中継ぎ論が存在し、それが近代へと継承され、皇位継承において男系男子が優先される言説が見られる一方、男系男子のみが継承するという旧皇室典範第一条とは明確な差異があることを指摘した。代表者・分担者の両論文は、今後の皇位継承論において参照が必須とされる重要な論文であると言い得る。 その他、2022年度の業績として、代表者の大川真は、共著として、奈良県立大学ユーラシア研究センター編『奈良に蒔かれた言葉Ⅱ : 近世・近代の思想』(大川真「新井白石の南北朝論」、京阪奈情報教育出版、2023年、総ページ数284p)を刊行した。また分担者の齋藤公太は、「「女帝」の言説史―神功皇后論と継嗣令第一条の解釈を中心に―」(日本思想史研究会(京都)2月例会、2023年)を口頭発表した。
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