当初の研究計画では、進化や生命現象の自然主義的理解の根底においても、自己保存のような生命固有の働きが前提となっていることを突き止めることを目的とした。これに対しては、理論物理学者のE・シュレーディンガーが秩序崩壊のエントロピーに対して負のエントロピーを生命現象の特徴と見なし、物質の機械論的法則の根底に熱力学の統計的法則を据えた議論の詳細を確認した。生命活動を基本的に「機械仕掛け」、つまり原子の運動の複合によって説明しようとした。 これらはそれ以上の根拠を問えない彼の生気論的な前提にもなっており、生命現象の根底に機械論とは別の根拠が必要な事例として考えられた。 こうした機械論的法則とその外側との関係は、法則とは一般的に、その法則自身からは導かれることができない存在論的な構図として描くことができた。例えば機械論的因果という宇宙法則は、機械論的因果だけの宇宙からは導き出すことができないことも、その事例として考えられる。 この構造は、A・ショーペンハウアーの根拠律や、A・ホワイトヘッドの「限定の原理」など、伝統的な哲学史の中でも見られ、実証知一般における形而上学的な前提の排除不可能性と、そこに必ず伴う実証知の側から接近できない領域の存在を示している。またこの構造はL・ウィトゲンシュタインの規則論において根拠を探って行くと跳ね返されてしまう岩盤の性質にも見られた。この論理的な構造をモデルとして、物質の世界と実在の世界との関係や、事象とその始まりとの関係などを考察した。 実際にこの構造は、宇宙成立に関して特異点を解消することで、無から存在が生じた謎の克服を試みたS・ホーキングの理論の存在論的検討を通じて洗練し直す必要がある。一定の因果関係の始まりはその関係だけを唯一にすると特異点になるが、その因果の枠の外に出るならば、その点は特異点にならないからである。
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