研究実績の概要 |
最終年度の2023年度は、米国聖公会の聖職者であり、また宗教改革以来の英国国教会初の男子修道会である「聖ヨハネ福音記者会」の3人の創設者の一人であったチャールズ・チャップマン・グラフトン(1830-1912)が推進したキリスト教エキュメニズムを分析した。グラフトンが唱えたキリスト教エキュメニズムとは、移民の流入によりキリスト教の多様性が増大する時代に、教会東西分裂以前のような多様性の中での一致を模索することを通じて、アメリカのキリスト教を活性化させようとするものであった。彼の試みは、福音派をはじめとするプロテスタント諸派から、時代錯誤の反アメリカ的企てと非難された。しかし、グラフトンが残した記録を詳細に読み解くことで、グラフトンは異なる教会間の友愛的連帯によるアメリカ・キリスト教の「有機的統一」を試みていたことが見えてきた。また彼の試みは、道具的理性や功利主義的個人主義に基づく近代アメリカ社会への批判であったことも浮かび上がってきた。この研究の成果の一部は、The 68th annual British Association for American Studies Conference (April 11, 2024)で発表した。 本研究では、19世紀後半から20世紀初頭における米国聖公会のアングロ・カトリシズムの思潮とそれに基づく運動(セツルメント運動、教会建築運動、修道院復興運動、エキュメニカル運動)を取り上げ、従来のアメリカ思想史研究において個別に研究されてきた、社会的キリスト教、革新主義思想、市民宗教、コミュニタリアニズム、などの底流に、宗教を経由した公共善に基づくリベラルな共同体主義の潮流が存在していたことを示した。
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