研究課題/領域番号 |
20K00114
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 一径 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70581552)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 西洋思想史 / 写真史 |
研究実績の概要 |
本研究は西洋における「社会」の表象の変遷を思想史的にたどり直すものである。3年間の研究期間の1年目にあたる2020年度は、西洋における社会表象としての動物の役割の変遷を、思想史的にたどり直すことが、当初の主たる計画であった。しかしながら、新型コロナウィルス流行の影響により、予定していたフランス出張を行うことができず、現地での文献調査ができなかったために、研究計画は変更を強いられることとなった。そのため本年度は、この研究課題に先立つ、写真にかんする研究をまとめることに注力した。報告者はかねてより写真をイメージ人類学的な観点から考察してきており、これは人類にとってのイメージの意味を考察するという点で、本研究課題とも通底するものである。研究成果の1つ目である論文「Un Unfaithful Trace」は、写真における被写体のサイズの問題を考察したものである。足跡などとは異なり、写真において被写体のサイズを保持することは難しい。この点に着目することで、本論文は、しばしば写真を「痕跡」とみなしてきた従来の写真論の見直しを試みた。また、論文「目で触れる」は、装丁家戸田ツトム氏の追悼文という形で、写真における触覚性について考察したものである。さらに分担執筆の形で寄稿した「司法メディア」では、身元確認技術としての写真と指紋の19世紀以来の相克が、今日においてBLM運動へとつながった警察の暴力の背後にも影響をもたらしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス流行の影響により、予定していたフランス出張を行うことができず、現地での文献調査ができなかったために、研究計画は変更を強いられることとなった。このため本年度は、本研究に先立って行なってきた、写真の歴史のイメージ人類学的な研究をまとめ直し、本研究の理論的な基盤を整えることに注力した。西洋における社会表象としての動物の役割の変遷を、思想史的にたどり直すという作業については、現地での文献調査が行えなかったものの、19世紀後半の社会生物学の文献については、デジタル化された資料や、書籍の購入によって、ある程度収集と読解を進めることができている。また、これまでの写真を中心とするイメージの人類学的な研究を、本研究の観点にからめながら論じた論文を発表することで、研究代表者がこれまで手掛けてきた写真イメージの研究と、本研究で手掛けている社会イメージの研究との整合性を、より明確に示すことができた。このように、当初の計画は修整を強いられたものの、次年度以降の研究推進につながる基礎は築けたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は2021年5月に、東京大学の塚本昌則教授の主催する研究会「文学と人文知」において、「私たちはミツバチであるのか? 社会のイメージと身体」と第する研究発表を行う予定である。この発表は、西洋における社会表象としての動物の役割の変遷を、思想史的にたどり直すことを目指す本研究の、最初の成果となる予定である。 また、研究代表者は所属機関より2021年9月から1年間の研究休暇を得て、フランスに滞在の予定である。この滞在により、昨年度は行うことのできなかった、現地での文献調査を、集中して行うことができるはずである。また、フランスでの受入先であるナントの高等研究院は、人文科学・社会科学を中心とする様々な領域の研究者が世界各国から集まり研究滞在をする機関であり、互いの研究成果を発表するシンポジウムが定期的に開かれることになる。研究代表者もそこで本研究についての成果を発表し、また他の研究者との議論から知見を得ることにより、本研究の推進に寄与できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大の影響により、2度のフランス出張の予定がすべて中止となり、そのための経費が翌年度に持ち越されることになった。感染状況を注視しつつ、計画的な使用を行う予定である。
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