本研究の最終年度にあたる2022年度は、前年度に引き続き6月までナントの高等研究所にフェローとして滞在した。この滞在中においては当初の予定通り、本研究の理論的な後ろ盾であるアラン・シュピオ(コレージュ・ド・フランス名誉教授)やミュリエル・ファーブル=マニャン(パリ第1大学教授)との研究打合せを行ったほか、フレデリック・ルブレイ(ナント大学准教授)を代表者とする、医学史に関する共同研究の実施が決定するなど、新たな研究ネットワークを構築することができた。 西洋思想史において蜜蜂が人間社会のイメージとしていかに利用されてきたのかを跡付けることが、本研究の骨子であるが、当初はこの思想史は20世紀初頭の生物学的議論までのみを射程に入れたものだった。しかし研究滞在中に培った「無知学」をめぐる新たな知見により、蜜蜂が現代の科学の信憑性をめぐる議論でも重要な役割を果たしていることがわかった。このように本研究と「無知学」の関連性を見出したことはこの滞在の成果であるが、この点を加味した本研究の集大成となる論文を収録した共著書が2023年度中に刊行予定であるほか、無知学についてのフランス語論文の拙訳が近く刊行の予定である。 また、イメージと人間社会の関係性をめぐっては、当初からピエール・ルジャンドルの思想が本研究の重要な着想源となっているが、このルジャンドルの提唱する「ドグマ人類学」的観点から西洋における写真のイメージの人類学的な意義を考察した論文を執筆し、近く刊行の予定である。身体イメージやアイデンティティの問題を考察したこの論文は、2023年度より実施する新たな研究「身体計測の思想史」(基盤C)と本研究を接続するものでもある。
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