研究課題
本研究課題は、現代を代表する遊びであるデジタルゲームにおける没入(イマージョン)概念を美学的観点から考察し、現代のメディア環境における現実世界と虚構世界の関係を解明するものである。その具体的作業は、「遊び」「メディア」「プレイヤー」という三つの軸に即して、デジタルゲームに特有な没入の様態を解明することである。その目的は、狭義の虚構世界を生み出すメディア環境の構築に有益な知見を提供するだけでなく、バーチャル環境や情報通信技術教育、eラーニングの構築など、ユーザーや参加者の積極的関与と没入が要請される多くの社会実践に対して有益な示唆を与えることである。初年度である令和2年度には、メディアとインタフェースの問題に焦点を当てた。マクルーハンやボルター=グルーシンの理論に立脚して、メディアとしてのデジタルゲームを分析した。その成果は、論文「ゲーム研究──ゲームが「メディア」であるとはいかなる意味か」(伊藤守編著『ポストメディア・セオリーズ──メディア研究の新展開』、ミネルヴァ書房)として発表された。また、インタフェースの問題については、eスポーツと伝統的スポーツの違い、および玩具としてのデジタルゲームという観点からアプローチした。前者の成果は、論文「eスポーツから考える──身体、技術、コミュニケーションの現在と未来」(『Fashion Talks...』第12号)として発表された。後者の成果は学会発表「Japanese Digital Games in the Tradition of Toys」(ストックホルム大学)として発表された。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初予定していた通りの研究遂行および成果発表ができた。
第二年度である令和3年度は、プレイヤーのアイデンティティの問題に焦点を当てる予定である。その際、物語論や相互行為論を参照する。具体的には、小説における語りの水準を分析する文学理論(ジュネット)や、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)の分析蓄積がある社会学的相互行為論(ファイン)を参照する。これらの理論に依拠し、ゲーム研究の分野での蓄積も活用しつつ 、デジタルゲームのプレイヤーが虚構世界のキャラクターやアバターとどのような関係を取り結んでいるかを理論化する。そして最終年度である令和4年度は、メディアとプレイヤーに関するそれまで二年間の研究成果を、デジタル時代における遊びの美学理論の中に再統合し、他の芸術ジャンルやメディアにおける没入との共通点と相違点を明らかにしたうえで、デジタルゲームにおける没入の理論を構築する。
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JTLA (Journal of the Faculty of Letters, The University of Tokyo, Aesthetics)
巻: 44 ページ: 51-57
Fashion Talks...
巻: 12 ページ: 28-37