研究課題/領域番号 |
20K00128
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西田 紘子 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (30545108)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽理論 / 音楽美学 / フーゴー・リーマン / 音楽事典 / 音心理学 / 学際性 / 科学史 |
研究実績の概要 |
2021年度は、フーゴー・リーマン(Hugo Riemann, 1849-1919)の音楽思想の受容および学際性について、以下の5点から研究を行った。 まず、リーマンが編纂した『音楽事典』(1882-)に着眼し、英語圏やフランス語圏における翻訳時の特徴や影響関係を検討することで、理論概念のグローバル化の過程を、具体例を通して明らかにした。成果発表として、フランスにおけるリーマン受容を専門とする研究者とともに共著論文を発表した。 次に、この『音楽事典』から和声理論に関する重要概念を抽出し、生前の版(初版から第8版)においてこれらの概念がどのように変容しているか、またその変容の過程において音響学や音心理学といった隣接学問分野の知とリーマンの音楽理論がいかなる相互作用をみせているかを考察した。成果発表として、前年度に行った口頭研究発表の内容を改良した研究論文を発表した。 また、晩年の論考「〈音想像〉論の着想」(1916)や1910年代に展開された音心理学者との論争をとり上げ、論争を通してリーマンが音心理学と音楽理論の関係をどのように捉え直したかについて国際学会において発表を行った。これについて当該年度後期に論文を準備した。 さらに、同音楽事典や『音楽学提要』(1908)などのリーマンの主要著作群において、リーマンが音楽理論と音楽美学、音心理学や音生理学といった当時の諸分野・諸領域をどのように関係づけていたかについて分析し、音楽理論や音楽史、音楽美学を専門とする研究者とともに、方法論に関するシンポジウムを実施し、科学史を専門とするコメンテータからコメントを得た。このシンポジウムから得られた知見を論文等の形で形にすべく、当該年度後期に準備を進めた。そのほか、音楽理論・美学に関する専門書の翻訳を進めた。 最後に、音楽理論と演奏の学際性に関わる英語共著論文が論文集という形で出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で、予定していたヨーロッパでの史料調査や現地に赴いての国際学会発表を実行することはできなかった。しかし、前年度に行った2つの口頭発表について、論文として公表することができた。そのうち1つについては、連携研究者との共著論文という形で発表することで、音楽理論史や音楽理論の受容史の研究方法について新たなありかたを提示することができたと考えられる。 また、本年度後期に実施したシンポジウムでは、音楽理論や音楽史といった音楽学分野の研究者だけでなく、哲学や科学史を専門とする異分野の研究者とテーマを共有し、議論を行うことができた。これにより、本研究テーマを分野内部だけでなく、より学際的で広い歴史的視座から展開することができた。この成果については、当該年度後半に、より発展的な形で論文等の形にすべく準備を進めることができた。 また、予定していたヨーロッパとロシアでの国際学会発表のうち、1つは参加を見合わせざるをえなくなったが、もう1つについては音楽理論・分析の専門学会にオンラインで参加することができた。それにより、日本における学際的な音楽理論研究を発信することが可能となった。 また、音楽理論と演奏の関係に関する、海外の研究者や異分野の研究者との共同研究の成果については、コロナ禍等で論文の出版が遅れていたが、2021年度にオックスフォード大学から出版することができた。 音楽の聴き方に関する音楽理論と美学に関する専門書の翻訳についても、おおむね順調に翻訳作業を進めることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響で、2020年度と2021年度の計画は順序を入れ替えて行うこととした。そのため、2021年度は2020年度に行う予定だった「リーマン生前の音楽理論と音響物理学・音響心理学との関連」に関する研究調査を中心に進めていった。2022年度についても、国際学会の延期などが生じうることが予想される。そのため、国内学会でも口頭発表を申し込んだり、次年度以降の研究展開を見据えて研究計画を変更したりなどの方策をあらかじめとっていく予定である。 コロナ禍だけでなく、世界情勢によっても先が読めない状況にあるため、状況をみて、当初の計画にとらわれずに柔軟に対応していくこととする。これらの状況により、依然として海外渡航が難しいため、海外に所蔵されている史料について現地調査がどうしても困難であることが判明した場合は、取り寄せを行うこととする。取り寄せについても、通常よりも時間がかかっているため、資料収集をできるだけ早めに進めておく。 また、複数の研究者が関与する形での成果発表については、それぞれの事情を考慮し、柔軟に対応して変更を施した上で、計画的に公表できるように調整していく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定使用額から差が生じたのは、主に以下の理由による。(1)コロナ禍の影響で、予定していた2つの国際学会発表のうち1つへの参加を見合わせざるを得なくなった。もう1つはオンラインで参加したため、海外旅費の支出がなくなった。(2)海外渡航が難しく、海外での一次史料調査を行うことができなかった。このため、海外旅費の支出がなくなった。(3)口頭発表を行った国内学会のいずれもオンラインもしくはオンライン/対面のハイブリッドで行われたため、国内移動旅費を必要としなかった。
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