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2022 年度 実施状況報告書

謡伝書用語の体系的研究―演奏の理念と表現を中心に

研究課題

研究課題/領域番号 20K00131
研究機関京都市立芸術大学

研究代表者

高橋 葉子  京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 客員研究員 (20766448)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード謡の呂律 / 祝言・亡臆 / 塵芥抄 / ツヨ吟発生のメカニズム / 橋本市左衛門伝書 / 定家・芭蕉の太鼓
研究実績の概要

①前年度から調査をしている「永正元年観世道見在判伝書」の全体的な解題と素翻刻を終え、同書の呂律論を中心に、東洋音楽楽会第73回大会(2022年11月)において発表を行った。またこの発表を改訂補足し、所属する京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターの紀要に論文を提出した(掲載予定)。この伝書において呂の声とは、世阿弥が主張する祝言の声ではなく、人間的な心情を表す亡臆の声調であり同時に技巧的な声とされている。拙稿では、こうした技巧的表現の追及が、音階構造と旋律からの逸脱というツヨ吟独自の特徴を生み出したと推論した。報告者は前年度に、世阿弥の音曲論の再読を通じて、非風を是とする闌曲を謡の最高位とする思想がツヨ吟の母体となった可能性を論じたが(2022.3能楽学会口頭発表、2022.12『能と狂言』)、闌曲と呂の声とは、等しく亡臆(非祝言)を表現するものであり、技巧を行う点でも性格を同じくしている。次年度は、祝言をツヨ吟の母体とする従来説および謡における祝言の歴史を再検討し、ツヨ吟発生過程の解明に向けて研究を集約していきたい。
②関連研究として、神戸女子大学古典芸能研究センター謡伝書研究会(代表者樹下文隆)において『塵芥抄』の翻刻を共同で行った(2022.6、同研究センター紀要)。『塵芥抄』は室町末期の謡の構成音を記す重要文献であり技法研究の貴重な資料だが、従来音階資料として扱われるのみで、伝書の全貌については殆ど研究されていない。報告者は翻刻作業に続いて、同書の典拠の一つである『混沌懐中抄』との具体的関係を調査を行った(同紀要次号に掲載予定)。
③関連研究として、江戸期の太鼓伝書と福王系の謡伝書に基づき、極めて珍しい太鼓による〈定家〉〈芭蕉〉の伝承を武蔵野大学能楽資料センター紀要に紹介した(2023.3)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度の研究の中心とした「永正元年観世道見在判伝書」については既存の研究がなく、基礎的な資料情報の把握から始めざるを得なかったが、予定通り異本調査と全文翻刻を行い、全体的解題と同書の呂律論についての論考を発表することができた。本書は成立年代未詳だが、室町末期の代表的謡伝書『塵芥抄』(天正11以前)の影響を受けておらず、古色と独自性の認められる伝書である。また本書は、報告者が翻刻解題作業に参加する『謡鏡』(寛文2年刊の謡伝書。研究会代表者藤田隆則)の典拠の一つでもある。『謡鏡』をはじめいくつかの伝書との比較研究を通じ、中世から近世への謡の変化が読み取れる資料としての本書の歴史的重要性をさらに認識することとなった。ただし難解記事が多く読解の不十分な部分も残しているため、科研費研究を一年延長し、引き続きこの伝書の研究を行うこととした。具体的には、分量的に過半を占める「音曲十五之大事」を中心とした研究発表を行う方針である。全文の翻刻は23年度に京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター伝音アーカイブスに掲載するが、形態について検討中である。また、研究期間全体を通じて行っている主要謡伝書の索引作成に向けたデータ化作業は、各伝書の条目一覧と比較表の形で、同じく23年度に公開する方針とした。

今後の研究の推進方策

①京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター伝音アーカイブスに『永正元年観世道見在判伝書』の全文翻刻を掲載する。前項に言及した『謡鏡』の研究成果が同アーカイブズに公開される予定であり、これと連動するものでもある。②との併用で研究に利用されることを目的としている。
②主要伝書(八帖花伝書・永正元年観世道見在判伝書・音曲玉渕集・謡之秘書・塵芥抄・謡鏡)の条目一覧表を作成、上記アーカイブズに公開する。目的は、伝書間の項目比較を容易にし、広く謡伝書研究の便宜をはかるためである。

次年度使用額が生じた理由

所属する京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターのアーカイブズに、研究資料の翻刻と条目比較一覧表を掲載するための作業依頼の費用として保存した。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 〈定家〉〈芭蕉〉の太鼓秘説―金春流太鼓橋本家市左衛門の伝書より2023

    • 著者名/発表者名
      高橋葉子
    • 雑誌名

      武蔵野大学能楽資料センター紀要

      巻: 34 ページ: 1-16

  • [雑誌論文] 『塵芥抄』を読む 「早稲田大学演劇博物館本と京都観世会浅野文庫本(弥石源太夫識語本)翻刻」2022

    • 著者名/発表者名
      樹下文隆・大山範子・長田あかね・藤田隆則・高橋葉子
    • 雑誌名

      神戸女子大学古典芸能研究センター紀要

      巻: 16 ページ: 88-117

  • [学会発表] 永正元年観世道見在判伝書の音曲論2022

    • 著者名/発表者名
      高橋葉子
    • 学会等名
      東洋音楽学会第73回大会
  • [図書] 能と狂言 202022

    • 著者名/発表者名
      能楽学会
    • 総ページ数
      140
    • 出版者
      ぺりかん社
    • ISBN
      9784831516275

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公開日: 2023-12-25  

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