研究課題/領域番号 |
20K00137
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
大林 のり子 明治大学, 文学部, 専任准教授 (00335324)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マックス・ラインハルト / エルンスト・マトレイ / パントマイム / 演技 / 舞踊 |
研究実績の概要 |
2020年度は、コロナ禍のなか、海外渡航による現地での調査を行う機会が得られなかったことは残念である。 研究計画としてきた、演技と舞踊の中間点としての非言語表現に関する研究の進捗としては、前年度の研究発表を土台としながら、エルンスト・マトレイに関する資料の読み込みを進め、研究論文「ラインハルト劇団の振付とその越境性ー国際パントマイム協会(1925)設立の背景」(近現代演劇研究9号 2020年8月)として纏めた。 また、過去の無言劇や音楽劇に関する分析と考察から明らかになってきた、舞台における身体表現への意識の高まりを見据えながら、あらためて会話劇の上演において意識されている演技に関する記述についても見直しを進めることとした。 たとえばラインハルトによるシェイクスピア演出については、すでに先行研究として、『夏の夜の夢』に見られるシアトリカルな側面(舞台音楽や美術、衣裳、照明、舞踊)も知られているが、あらためて演出台本に記された俳優の演技に関する記述を見直すと、いくつかの異なる非言語表現の特長が見えてくるように思われた。 そこで、1916年に演出された『マクベス』のラインハルトによる演出台本から、その非言語表現について分析し、再考を試みた。近年の自身の研究を踏まえることで、演出家本人の指示に加えて、協働製作により俳優自身の身体性や個性から生じた表現がそこに含まれている可能性も検討が可能になってきたように思う。その考察の成果は「ラインハルトの『マクベス』(一九一六年)演出台本における非言語表現」(文芸研究 (143) 2021年2月)に纏めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画として予定していたベルリンおよびウィーンのアーカイブにおける資料調査については、コロナ禍のもとで、まったく実施することが叶わなかった。 一方で、すでに収集済みの過去から近年までの資料の見直しを進め、前年度に収集した南カリフォルニア大アーカイブ所蔵のエルンスト・マトレイに関連する書簡などの分析を進めてた。これまで先行研究で触れられることのなかった「国際パントマイム協会(International- Pantomime Gesellschaft)」の実態については、この調査の結果、具体的な内容もかなり把握することが可能になった。 今年度は、マトレイが舞踊家あるいは振付家としてラインハルトと共に製作に携わった部分に焦点を絞って考察を進めたが、マトレイの渡米後の活動にはミュージカル映画やヴァイル作曲のオペレッタの製作などもあり、20世紀前半のドイツとアメリカの舞台や映画における身体表現または非言語表現の交差した状況についても、これらの資料により考察を継続している。 他方、ラインハルトの演出台本を研究素材として、演出家の意図や考えを読み解くのみならず、そこに記された舞台化への設計図から、主に身体表現や非言語表現に関する記述を再考することにも新たな可能性が見いだされたように思う。それは、近年の申請者の無言劇やパントマイム、音楽劇における協働製作の調査研究を経て、得られた視点である。
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今後の研究の推進方策 |
3年間の計画の残り2年間では、すでに収集済みの資料についても、近年得られた新たな研究分析の視点から、改めて読み直し分析を行う必要があると考えている。そして、状況が許せば、当初の計画通り、新たな視点からの研究に必要となる資料については、ベルリン・ウィーン・カリフォルニアの関連するアーカイブおよび、ニューヨーク大学のラインハルトアーカイブにおいて、まだ未調査の資料を行う。 また、20世紀初頭の欧米における身体表現や非言語表現への関心は、サイレント映画の流通、あるいはアジア諸国の伝統芸能についての理解の高まりなど、芸術上の関心に加えて、グローバリズムやポピュリズムによって要請された表現可能性の探究も重要な背景となっている。そこで、引き続き、ジャンル越境的な関連資料についても調査研究を広く行っていくと同時に、20年代から30年代の演出家ラインハルトを取り巻く舞台製作の状況について、作品ごとの協働製作の実態把握も務め、全体像を明らかにしていくことを目指す。
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