研究課題/領域番号 |
20K00139
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研究機関 | 大阪芸術大学 |
研究代表者 |
長野 順子 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (20172546)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 上演芸術 / 前衛劇運動 / 能楽 / 仮面 / 身体所作 |
研究実績の概要 |
20世紀初頭ヨーロッパの前衛劇運動に関わった人々が共有していた日本の「能」への関心とそれがもたらした影響をめぐる「文化の編み合わせ」について、以下のような調査と研究を行った。 (1)イギリス人演出家G.クレイグが1908年から約20年間発行し続けた演劇雑誌『仮面』で、古代ギリシア劇や東洋の演劇と並んで日本の伝統芸能に関する記事が数多く掲載され、とりわけ歌舞伎や人形浄瑠璃とともに「能」が、M.ストープスやA.ウェイリーらによる「能」作品翻訳の書評も含めて屡々取り上げられていたことを確認した。但しクレイグ自身は彼のロマン主義的なオリエンタリズムのゆえか、これらの知見を演劇実践に生かすことはなかった。 (2)クレイグの演劇思想に傾倒していたフランスの演出家J.コポーは、第一次大戦後のヴィユ=コロンビエ劇場の再開とともに演劇学校を付設して新しい演劇のあり方を追究し、1924年にその修了公演の一環として「能」作品『邯鄲』の上演を企てた。ウェイリーの英訳にもとづきフランス語に訳された台本によるこの試みは結局公開リハーサルのみに終わったが、ここでの仮面・身体所作・舞台空間の構想が、コポーに続くその後の現代演劇やパントマイムの開拓に大きな影響を与えたことを確認した。 (3)明治維新の欧化政策により廃絶の危機にあった日本の「能」が、「能楽社」の設立(1881年〔明治14年〕)や雑誌『能楽』の発行(1903年〔明治36年〕)を機に徐々に再興していくなかで、イギリス人チャンバレン、アメリカ人フェノロサ、フランス人ペリやクローデルらによる能への傾倒や能研究がどのように関わっていたのか、また彼らの帰国後ヨーロッパ各国に普及した「能」作品の翻訳や研究について、基本的な文献を調査・収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
G.クレイグの手稿その他を含む資料及びフランスの前衛劇運動における諸資料をさらに調査するためにフランス国立図書館(BNF)その他での作業を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大のためにかなわなかった。また、シュルレアリストの女性写真家クロード・カーアンの前衛劇に関わる活動等についても、出身地ナントのメディアテークにおけるアーカイブや市立美術館での調査がかなわず、彼女のセルフポートレートにおける仮面や人形振りをその前衛劇との関わりにおいて考察する作業が進んでいない。それと連関して、日本で最初となるカーアンの展覧会及び小シンポジウムの計画も現状では進展していないままである。なお、2021年8月に開催予定であった北フランスのCerisy国際文化センターでのシンポジウムについてもその打合せその他はメールによるのみとなり、シンポジウムは翌年夏に延期されることになった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、クレイグの演劇雑誌『仮面』(1908年から70号)及び『マリオネット』(1928年から12号)における「能楽」に関わる記事を中心に調べる。この雑誌には友人W.E.イェイツや野口米次郎も寄稿しており、彼らのイギリスでの日本人との交友関係や活動について、また能に触発されたイェイツの舞踊作品『鷹の井戸』の上演(1916年)にいたる経緯を調査する。ウェイリーの能作品の英訳(1921年)について原作と比較対照するとともに、そこでの能楽紹介について他の文献との異同も含めて確認する。その際、1909年に日本で初めて出版された世阿弥の理論書への言及にも留意する。また『仮面』誌でも取り上げられたペルツィンスキーの「能面」研究(1925年)について彼の日本での活動も含めて詳しく調べる。 フランス演劇界の刷新を企てた演出家J.コポーのヴィユ・コロンビエ劇場に付設された演劇学校について引き続き調査する。ここで統括的に指導していたS.ビングは、1924年に予定していた能『邯鄲』上演の準備のために前年からウェイリーの英訳を研究してそれをもとに彼女が自らフランス語に訳したことがわかっており、その草稿を手に入れて詳しく検討することで修了公演の公開リハーサルにおける仮面・身体所作・舞台空間の構想をできるかぎり明らかにしたい。また、コポーよりもさらにラディカルな前衛劇の実験場としてプラトー劇場を主宰した演出家P.アルベール=ビロの活動のプロセスについて、彼が発行した前衛雑誌SICの役割も含めて調査を進める。またこのプラトー劇場でのC.カーアン(科学研究費研究:課題番号26370097のテーマ)の関わり方も再考する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルス感染拡大によりフランス国立図書館その他における調査のための海外出張がかなわず、また東京の諸施設での資料調査等も控えざるを得なかった。ただ次年度も国内の調査出張は少しずつ可能になるとしても、海外出張はやはりまだ難しいかもしれない。なかなか手に入りにくい文献資料の収集と関連機器の整備に努める予定である。
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