研究課題/領域番号 |
20K00143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小田部 胤久 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80211142)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古典の賦活 / 『判断力批判』 |
研究実績の概要 |
人文系の学問にとって古典の重要性はあらゆる研究者が指摘するところであるが、古典を現代に賦活する方途に関しては、必ずしも一般的な了解が成り立っているとはいえない。従来の訓詁註釈型の研究は古典の理解にとって不可欠の前提をなすとはいえ、古典を現代に接続するには不十分である。本研究は、美学の古典中の古典である『判断力批判』を取り上げて、それを単に2世紀前の歴史的書物として扱うのではなく、現代の美学理論を積極的に構成するものとして捉える方途を探り、古典賦活のためのモデルを構築する試みである。具体的には、(a)『判断力批判』第一部を10の美学的主題に即して論理的に再構成し、それぞれの主題に関して(b)一方で歴史を遡りその理論的背景を示すと共に、(c)他方で現在にいたるその影響作用史を論じる、というテクストへの重層的な接近を通して、現在美学において論じられている主題と『判断力批判』とを接触・接合させることをめざすものである。古典賦活のためのこのモデルは、古典を通して現代の美学理論を賦活する役割を果たすものとしても構想されており、この古典賦活のモデルの有効性を検証するために、同時に、古典の古典性を意識して美学の古典を研究している美学研究者との共同研究を通して古典概念の再検討を行う。 2020年度には、上記目標を達成するための第一歩として、『美学』という約480頁からなる書物を公刊するとともに、この構想を一般読者にも伝えるための工夫を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『判断力批判』を三重の観点から論じるという構想それ自体は、私が20年前に抱いたものであるが、当時の私はなお『判断力批判』について十分な読解ができておらず、さらに、今回計画している研究の(b)および(c)に関する部分は(私の勉強不足故に)全く手つかずの状態であった。そのため、この構想も画餅に帰した。その代わりに誕生したのが、『西洋美学史』(2009年刊)である。これは、「緯糸」(すなわち各章が取り上げる個々の思想家・理論家、例えばプラトン)と「経糸」(個々の章で扱う通時的主題、例えばプラトンの場合であれば「知識と芸術」という主題)とを交叉させることで美学史を織りなすものであり、古典を現代とつなぐという私の当初のもくろみを実現するものであった。今回公刊した『美学』は、この構想をカントの『判断力批判』に即して具体化したものである。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度以降は、『判断力批判』の註釈の作成に取りかかる。古典を現代に賦活するには、二種の註釈、すなわち glossae と scholia が必要である。2020年度に公刊した『美学』は scholia に相当する。今後は、glossae に相当する書物の公刊を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために、予定していた海外出張3件、ならびに、東京大学で開催予定の国際会議を延期せざるをえなかった。海外出張ならびに国際会議に関しては、コロナ禍の推移にもよるが、2021年度に予定している。
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