研究課題/領域番号 |
20K00143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小田部 胤久 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (80211142)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 美学における古典 / 無関心性 / シェリングと日本 / 美的仮象 / ファンタスマ |
研究実績の概要 |
2021年度は、とりわけ、ドイツ観念論の時代の美学理論の持つ古典的な意義について,考察を加えた。 北米シェリング協会がオンラインで行った特別講演では、「シェリングと日本」と題して、シェリングの哲学が近代日本において受容される過程を概観した。 また、カナダ・ニューファンドランドのメモリアル大学が毎年主催する George Story Lecture に招待され、カントの美学理論における「無関心性」の概念について、考察を行った。 さらに、日本シェリング協会の大会では、「大西克礼とシェリング」と題する特別講演を行い(これは、北米シェリング協会における報告をさらに発展させたものである)、20世紀前半の日本を代表する講壇美学者の大西克礼がいかにシェリングと対決したのか、この点を明らかにした。 さらに、カント『判断力批判』に対する新たなアプローチを模索し、第一部「美的判断力の批判」の訳註の公開に向けて研究を続けた。 公刊物として、特に取り上げたいのは、淺沼圭司を特集した『コメット通信』に寄稿したエッセー「〈よそ〉の美学者――パンタスマに佇む淺沼圭司」である。淺沼圭司は,日本における映画学を牽引したことで知られるが、さらにフランスのいわゆる現代思想系の美学理論を独自に取り入れ、自らの美学理論を形成した。私はこのエッセーを準備する過程で、淺沼圭司が古典と相対する態度から多くを学ぶことができた。これを自分の研究にも生かしていきたい,と考えている。また、樋笠勝士氏の編纂する論集『フィクションの哲学』に寄稿した論文「美的仮象論の成立過程」では、「美的仮象」という美学の古典的概念の再評価を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄の最後に記した『判断力批判』第一部註釈の作業がかなり進捗したこと、これが2021年度の最大の成果である。これは,論文等の形においてなお発表していないが、2023年度中に公開できるように,最大限努力したい。 コロナ禍で国際会議等が中止・延期される中、二つの国際研究会議において発表できたことは,大変幸運であった。 また、「研究実績の概要」では触れなかったが、ポーランドの国際誌 Dialogue and Universalism から、「日本の啓蒙思想」についての寄稿を頼まれたことも,思いがけない研究の展開をもたらした。すでに2021年2月に原稿を提出したが、「日本の啓蒙」という視点から古典賦活について考える手がかりをえた。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」欄に記したように,『判断力批判』第一部註釈の作業に一応の目処がついたので、これを2022年度から2023年度にかけて完成させることを、第一の目標としたい。 さらに、2022年度は、3つの国際会議で報告する予定であるので、それに向けて準備を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、2020年度に東京で予定していた国際会議が延期となったため。現在のところ、2022年度中に開催予定。
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