2023年度(本研究最終年度)の研究実績は、大きく次の4点にまとめられる。 1)美学関連の古典の翻訳・註釈作業に関して。カント『判断力批判』第一部訳註の作業を終え、出版社に原稿を渡すことができた。2023年度末に初校ゲラが出て、校正を始めたところである。公刊は2024年度となるが、本研究の完成に向けて次年度も努力を続ける予定である。 2)近代日本における古典復興について。岡倉覚三の理論を、西洋との出会いをとおしての東アジアの古典復興の試みとして捉え返す昨年度の作業を発展させ、日本の近代美学の展開を「近代日本における「生活の美学」:グローバルな観点から」という論文にまとめた。これはドイツの雑誌「美学ならびに一般芸術学雑誌」に掲載される予定である。 3)ドイツ観念論の美学理論の再構成。2023年度はとりわけ、シェリングの芸術理論における古代ギリシアの意味について検討を加え、2023年10月にミュンヘンで開かれた会議において報告した。2023年12月開催に東京大学において「人新世の時代におけるシェリングの哲学」と題された国際会議を主催し、古典賦活の可能性について議論を深めた。会議の報告集はドイツ語および英語にて、JTLA雑誌に公刊する予定である。なお、私自身は「地質学的構想力」をキーワードに、「過ぎ去る時間」とは異なる「堆積する時間」の意義を論じた。 4)本年度から、カナダ政府の助成に基づく国際研究グループ「環境美学ワーキンググループ(WGEA)」の活動が始まった。私は、ション・ミグラ教授(カナダ・メモリアル大学)、ウーヴェ・フォークト教授(ドイツ・アウグスブルク大学)とともにその共同代表を務めている。緩急美学という点からも古典賦活の可能性を探る作業に着手した。
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