本研究の目的は、1945年から1960年代前半の約20年間に、在日・在米の日系アメリカ人美術家が芸術作品の制作とは別に、日本の美術家のためにいかなる活動を行っていたのかを明らかにし、彼らの支援が戦後日本美術の復興と国際化にどのように繋がったのかを解明することにある。そのために令和2年度から令和5年度にかけて、国内外で資料収集・調査を行い、研究成果を発表してきた。 令和5年度は、国内では、1950年代に渡米した日本人美術家の中から、吉田遠志・穂高・千鶴子・ふじをを取り上げ、ご遺族宅で継続的に調査を実施した。その結果、渡米中の移動経路や活動が明らかとなった。一方、海外では、令和5年10月にホノルル美術館所蔵の内間安セイ・吉田穂高・千鶴子の版画作品・資料調査を行った。その結果、日本人美術家と戦後の在日アメリカ人との交流を跡付けることができた。 当初、最終年度には海外の研究協力者を招聘し、研究発表会を実施する予定であったが、新型コロナウイルスの影響で3年間海外調査ができず研究が停滞し、また航空運賃の高騰など経済的問題も生じたので、研究発表会は中止とした。代わりに、最終年度は4年間に調査研究した成果を1冊の書籍にまとめることに注力した。令和6年7月には『戦後版画にみる日米交流1945-1965』を刊行の予定である。 また、2024年7月から府中市美術館で開催される「吉田遠志展」の図録、2025年にポートランド美術館で開催される「吉田千鶴子展」図録に寄稿を依頼されたため、本研究課題を通して判明したアメリカ人と日本人作家との交流について現在執筆中である。さらに、日系アメリカ人美術家内間安セイについては、2025年度に公立美術館で「内間安セイ・俊子展」が開催予定なので、彼が戦後の日米交流において果たした役割など本研究で明らかとなった情報の提供を行い、展覧会の充実に貢献したいと考える。
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