研究課題/領域番号 |
20K00155
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研究機関 | 国立音楽大学 |
研究代表者 |
堀 朋平 国立音楽大学, 音楽学部, 非常勤講師 (10723398)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グノーシス / 悲劇 / クレド / キリスト教 / 教会音楽 / ファウスト |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、フランツ・シューベルト(1797-1828)の創作と人生に、古代の知がいかなる影響を及ぼしたかを、以下の三つの視座から明らかにすることである。第一に、キリスト教が権威を比較的失いつつあった19世紀初頭のウィーンにあって、リベラルないし異教的とも呼べる宗教性が、シューベルトにいかなる影響を及ぼしていたかを、6作のミサ曲の分析から具体的に示す。第二に、哲学界と演劇界を火元として当時のウィーンを席巻していた古代悲劇の思想の影響が、シューベルトにいかなる影響を及ぼしていたかを、作曲家のドキュメントおよび思想的なコンテクストから浮き彫りにする。第三に、ゲーテやシェリングらの知識人が傾倒していた古代ギリシアの哲学者プラトンの、作曲家への影響を探る。 以上のすべてにあって分析対象となるのは、哲学書をはじめとする思想史的背景、書簡をはじめとする友人たちの思想、楽譜をはじめとする音楽テキストである。これによって、音楽の営みは、ぶあつい歴史の蓄積によって成り立っていたことが、本研究によって実証的に示される。 本年度の実績は、とくに上記の第一点と第二点にわたっている。 ①ミサ・テクスト、とくに「クレド」に対する14年間におよぶシューベルトの「編集」プロセスが、キリスト教最大の異端である「グノーシス」的な傾向によっていたことを、美学会全国大会で発表した(2021年10月・以下「学会発表」)。この発表原稿はすでに査読済のうえ、雑誌『美学』(第260号、2022年6月刊行)に掲載されることが決定している。 ②シューベルトと古代悲劇の接点と影響関係を、英語論文にまとめて発表した(以下「雑誌論文」)。なお本研究は、「ファウスト」をひとつのキーワードとして、シューベルトの思想傾向が遠く古代まで伸びていたことを、音楽および同時代の思想テキストの読み込みによって明らかにしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度と同様、コロナ禍の影響によって海外図書館での資料調査は実施できなかったものの、ネットによる資料の取り寄せによってこの欠落を相当程度補うことができたほか、「悲劇」と「グノーシス」を主題とする2つの研究を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの成果によって、当初予定していたハードルはほぼ達成された。2022年度には、それ等の成果をまとまった形態で著作にまとめること、さらに積み残した諸点を再考し、次なる研究課題を設定する作業が必要となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により予定していた海外渡航ができず、成果発表のために移動する必要がなかったため、「旅費」が申請額より大幅に下回ったことが大きな理由である。2022年度は、状況が改善していれば夏季に資料調査を実施できる可能性もある。加えて、研究用のパソコン購入および国内での調査旅行によって計画的に予算を使用できる見込みである。
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