研究課題/領域番号 |
20K00157
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
津上 英輔 成城大学, 文芸学部, 教授 (80197657)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジローラモ・メーイ / 『古代旋法論』 / Girolamo Mei / De modis |
研究実績の概要 |
ジローラモ・メーイ(Girolamo Mei, 1519-1594)のラテン語著書『古代旋法論(De modis)』(全4巻,1567-1573年執筆,1991年初刊)について,世界初の近代語訳(英訳)と英語による注釈を完成させることが,本研究計画の目的である. その初年度に当たる2020年度の研究は,英語著書Girolamo Mei: A Belated Humanist and Premature Aesthetician(2021年2月,勁草書房)の刊行準備と並行して進められた.すなわち,本書に頻出する『古代旋法論』からの引用文につき,ラテン語原文を英語に翻訳する中で,原文になるべく忠実でありながら英語として意味の通じる翻訳法を模索した.その過程で,ラテン文学研究の大家で音楽学にも造詣の深いOxfordのDr. Leofranc Holford-Strevensに翻訳を校閲してもらう機会を得た.その結果,私のラテン語解釈にあまり誤りがないこと,そして英訳が概ね妥当であることが確認された一方,いくつかの細かい点について,改善の提案を受けた.この経験は直接著書に反映させられた一方,『古代旋法論』全体の英訳の方針としても活用されている. 当初の計画では,本年度の研究で,パリ,ローマなどの図書館で『古代旋法論』関係の写本調査を行なう予定であったが,新型コロナウィルスのため,調査出張が一切叶わず,計画を変更して,手持ちの資料で行なえる研究を先にした. 現在,英訳を進めている過程で,計画の性格上,成果を部分的に公表することは不可能であるが,2021年度中に『古代旋法論』本文の英訳を終え,再びDr. Holford-Strevensの校閲を受けるつもりであり,本研究計画の最終年度に当たる2022年度には注釈も整えて,科研費研究成果促進費学術図書の助成に応募する所存である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究成果の概要】でも述べたとおり,2020年度の研究では,当初予定していたパリ,ローマなどの図書館での写本調査を行なうことができなかったので,予定を変更し,手持ちの資料で行なえる研究を進めた.すなわち,1991年の批判校訂版に基づいて『古代旋法論』の英訳を進め,写本に立ち帰って再度考察すべき箇所(自筆本Vat. Lat 5323における記載そのものに加え,同時代または後世に筆写された数点の写本の記載)については,出張が可能になった暁のためにメモを書きためた. その過程で,メーイのラテン語散文文体の特徴が浮かび上がってきた.それは従属節における接続法の用法である.もとよりこの用法は,古典作家の間でもばらつきが見られるが,キケローを頂点と仰ぐルネサンス人文主義者の文体において,中世ラテン語の響きを回避するためにも,古典の規範からの逸脱は避けられなければならないはずである.これまでの私の研究から,メーイは中世ラテンの語彙を極力避けようとしている(たとえば5―6世紀のBoethiusがDe institutione musicaで一度だけ用いているsuperadnectoの語を,メーイは自分の言葉でないことをひどく強調しながら引用している)ことが明らかになっているので,この点について,とりわけoratio obliquaにおける直説法/接続法の用例について,網羅的分析が必要と考えている. このように,一方で写本調査が滞っているのに反して,他方で英訳と文体観察が進捗しているので,全体として「おおむね順調に進展している」と自己評価する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的目的は『古代旋法論』の英訳と英語による注釈の完成である.【現在までの進捗状況】でも述べたとおり,目下英訳を進めているところだが,これを2021年度中に終え,Dr. Holford-Strevensの校閲を受ける.次に2022年度の研究で,本文への注釈を整え,これもDr. Holford-Strevensの校閲を受け,科研費研究成果促進費学術図書の助成に応募する.これが本研究の基本的な推進計画だが,2020年度に行なえず,2021年度も危ぶまれるパリ,ローマなどの図書館での写本調査を,2022年に集中して行なうことを目論んでいる. また,英訳を進める中で浮かび上がってきたメーイのラテン語散文文体について,英訳と並行して分析を進める.現在最も大きく浮かび上がっている従属節における接続法の用例は『古代旋法論』全体で数千件に上ると思われ,網羅的分析にはかなりの時間を要すると思われるが,そこから導かれる結果は数量的に明確な形を取るはずで,彼の「人文主義者度」とでも言うべきものに,大きな光が当たることが期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で,2019年度の科研費で2020年3月に予定していたローマ,フィレンツェ,ミラーノなどの図書館での写本調査を行なうことができず,2019年度の研究経費が大幅に余った,2020年度の研究に必要な経費は,まずそこから支出した上,2020年度にパリ,ローマなどの図書館で予定していた写本調査も行なうことができず,2020年度の経費に未使用額が生じた.
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