研究課題/領域番号 |
20K00158
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研究機関 | 武蔵野音楽大学 |
研究代表者 |
隈 晴代 (宮崎晴代) 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (10622061)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ソルミゼーション / グイド・ダレッツォ / 11世紀 / 13世紀 / ソルミゼーション・シラブル |
研究実績の概要 |
本研究は、11世紀から15世紀までの修道院における歌唱教育の中で、現在でも一般に用いられている「ド(ウト)・レ・ミ」だけではなく、「トリ・プロ・デ」シラブルによるソルミゼーション唱法が用いられていたことに着目し、この「トリ・プロ・デ」シラブルの用法の歴史的変遷を追うことによって、歌唱実践に欠かせないソルミゼーション唱法の伝承形態を明らかにすることが目的である。 コロナ禍により、当初予定していたイタリアの図書館に出向いて、実際に写本調査をすることができず、また海外の図書館とのやり取りやデジタル画像の入手に時間がかかり、画像の検証には進めなかったが、その代わり画像以外の部分の文字情報は入手できたため、そちらのラテン語を日本語に翻訳する作業を進めることができた。 その過程で、ソルミゼーション・シラブルを左手に用いることと、音を感覚的に認知することの間に関係がある可能性を見出すことができた。13世紀末以降、感覚/感情に関する言及が急激に増えていき、音程/旋法との関係にも言及されていく。この研究成果は、2020年度9月にオンラインで行われた西洋中世史学会全国大会で口頭発表した。さらにソルミゼーション唱法の研究に欠かせない歌唱実践の検証では、2020年8月に4日間連続で開催した「中世音楽講座」において、これらのソルミゼーション・シラブルを用いて歌唱することで、音の認知がどのように知覚されるのかを確認することができ、非常に有益であった。また、本年は日本音楽学会全国大会がオンラインで開催され、その実行委員を務めたことによって、例年よりも多くの研究発表を視聴し、多くの研究者たちとオンライン上ではあるが情報交換ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
写本調査のためにヨーロッパの図書館に行くことはできなかったが、その分、理論のラテン語部分の訳出に時間をかけられた。その結果として「トリ・プロ・デ」シラブルの用法と別のシラブルの用法との間に何らかの関係がある可能性が浮上してきた。これは「トリ・プロ・デ」シラブルの伝承が途中で消えていったこととも無関係ではない。その発見は本研究によって非常に有意義であったため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度に行えなかった写本のデジタル画像の分析調査を終了させ、一定の「トリ・プロ・デ」シラブルがどのような文脈でとらえられていたのかをまとめる。またさらに「グイドの手」の使用との関係も仮説として挙げておいたことから、本年度はこちらの検証も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年の夏に予定していたイタリアへの写本調査ができなかったこと、富山で開催される西洋中世学会がオンラインに切り替わったことで、旅費交通費等の支出がゼロだったこと、デジタル画像作成が遅れていて、その支出が年度内にはなかったことが主な理由。今年度は、写本のデジタル画像作成費が加わることと、地方で開催される学会への参加が可能になれば、その分に使用する予定である。
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