本研究の目的は、視覚文化論の観点から、戦間期日本における広告表現、とくに嗜好品の一種である洋菓子の広告が、挿絵・漫画、写真・映画という隣接する大衆的な視覚メディアといかなる関係をもったかを立体的・動態的に考察することである。2023年度は、洋菓子の広告デザインと「挿絵・漫画」「写真・映画」との間メディア性について、遠方の資料所蔵機関への出張調査を再開し、収集した関連資料の電子化やメタデータ入力による資料の整理とその分析を行うとともに、広告の文化的・社会的意味の変容との関連性を考察し、得られた結果を取りまとめ、成果発表を行った。 さらに、これまでのテーマを総合的に検討し総括を行った。第一に「洋菓子の広告デザインの多メディア化とメディア横断」について、各社による挿絵・漫画、写真・映画を流用した広告表現を網羅的に収集・整理した。さらに、広告の多メディア化を可視化するメディアとしてのPR誌の重要性を指摘したほか、各社が漫画による広告を試みた一次資料などの貴重な資料に基づき、具体的な検討を進めている。第二に「消費と結びつく大衆的デザインの領域」について、整理した資料にもとづき大衆的デザインの領域を示すとともに、特に映画に関連する広告について、大衆的な表現と先端的表現との往還を指摘した。第三に「戦間期の洋菓子における文化的・社会的意味」について、市場の動向や社会情勢、隣接文化の動向と密接に絡み合いつつ、その意味がモダンを基調としつつ細分化や変容するさまを追尾した。この研究課題において、東アジア地域も視野に含む、大衆的な視覚表現を借りた宣伝戦略の展開とメディア間の連動の検討、広告表象における嗜好の二重性を想定した上での企業のブランド戦略の萌芽としてのPR誌の検討を通して、飲食という五感を刺激しながら織り成される文化的営為と視覚表象との関連性を想定するに至った。
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