研究課題/領域番号 |
20K00166
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
足達 薫 東北大学, 文学研究科, 教授 (60312518)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マニエリスム / エロティック文学 / ピエトロ・アレティーノ / フランチェスコ・ベルニフランチェスコ・ベルニ / アントニオ・ヴィニャーリ / パルミジャニーノ / ジュリオ・ロマーノ / ドメニコ・ベッカフーミ |
研究実績の概要 |
2020年度は、ピエトロ・アレティーノによるエロティック文学(特に『モーディ』の分析を進めながら、ジュリオ・ロマーノおよびパルミジャニーノによる絵画作品および素描作品の現地調査および資料調査を並行して進める予定であった。 しかし、新型コロナウィルス問題により海外出張が事実上不可能となったため、当初予定していた外国での文献調査および作品調査ができず、計画に大きな変更が強いられた。代替計画として、2021年度に検討する予定としていた文学者フランチェスコ・ベルニによる詩集、いわゆる「バーレスク詩集」の読解を、国内で入手できる文献の範囲内である程度進めた。 特に、ベルニの作品における身体の部位(尻、睾丸、ペニス、胸、唇等)を果実や食物に喩えたり、小便を人間の本質的物質として礼賛したりする例、さらにはミケランジェロの作品に対する皮肉を込めたパロディ的詩などの例を検討し、分析した。特に後者の手紙は、画家セバスティアーノ・デル・ピオンボの「代筆」という仮面劇的・パロディ的設定を用いた一種の「パラゴーネ」(技芸間の優劣論)の遊戯でもあり、さらには同時期に画家ロッソ・フィオレンティーノがミケランジェロにあてた手紙(ミケランジェロの様式を賛美しながら、「そのような様式は私には望ましくない」とあえて語る)にも共通する「反ミケランジェロ」ないし「反正当的様式」の意志が強く認められる。 たとえば、ベルニによる詩「桃のカピトロ」では、人間の尻が桃に喩えられ(あるいは桃が人間の尻に喩えられ)、熟し、汁に満ち、薄い赤に染まったその形と色が人間の欲望の対象として賛美される。ここでベルニは、人間の身体それ自体をエロティックな記号的イメージに変えるきわめてマニエリスム的な遊戯的技巧を実現している。これらの分析によって、マニエリスム的身体の指標としてベルニの作品は有効な試金石たり得るという確信を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究実績の概要の項目でも述べたように、新型コロナウィルス感染拡大の影響によって所属先において海外での調査が事実上不可能になったため、当初予定されていた文献調査および作品調査が実施できなかった。そのため、アレティーノ、ベルニに関しては日本で入手可能なテクスト類をできる限り収集することにつとめたが、16世紀に検閲されて断片化してしまったアレティーノ『モーディ』およびアントニオ・ヴィニャーリ『カッツァリア』、およびいくつかのアレティーノ周辺のエロティック文学のテクストを集めることができなかった。 また、ジュリオ・ロマーノとパルミジャニーノによる絵画および素描を中心とする美術作品の調査もできなかったため、すでに刊行された文献に挙げられた作例以外、実際に視覚的な分析を行えなかった例も多く残されている。 2021年度以降も海外での文献調査・作品調査は困難となると予想される。今後の状況を踏まえながら、遅れを取り戻す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、ベルニ、ヴィニャーリ、さらにアレティーノ周辺のマイナーなエロティック文学作品に目を向け、国内で可能な範囲で文献を収集し、16世紀前半のイタリアにおいてエロティックな想像力がいかにして美術と文学双方に強い影響を与え、互いに同調作用を果たしていたかをより実証的に追求し、分析していく予定である。 しかし、前述したように新型コロナウィルス感染拡大の影響のため、当初予定していた海外調査が不可能となっており、当初の計画および到達目標を再検討する必要を感じている。特に、目標としていた「エロティック文学と美術の相関関係をめぐる研究書」では、当初は「美術作品の細部におけるエロティックな要素」にスポットライトを当てることを考えていた。なぜならば、エロティックな要素は往々にして絵画や彫刻のごく細部において現れるからである。ところが、それらの細部は写真や画像ではしばしばトリミングされたり、色彩および明暗において視認しにくくなったりするため、実際の作品を観察する作業が必要である。 コロナウィルス感染拡大の状況を見ながら、2022年度以降、作品調査ができるようになることを期待しながら、最終目標である成果発表の方法および内容を再検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大のため、当初予定していたイタリアにおける文献調査および作品調査が実施できなかった。そこで残額分の旅費予算(約300000円)は次年度以降に物品費へと転用し、資料収集集のために用いることとする。また、コロナウィルス感染拡大の状況を見ながら、海外調査の機会を待ち、可能となったならば再び予算用途を旅費に転じることも考える。先行き不透明な状況のため現段階では詳細な計画を立てることが困難だが、弾力的な対応によって可能な限り無駄のない研究を進めていきたい。
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