研究課題/領域番号 |
20K00170
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
金井 直 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (10456494)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モニュメント / 彫刻 / 新古典主義 / 現代美術 |
研究実績の概要 |
本研究は近代社会におけるモニュメントの生成・流通の構造を、彫刻史の精査を通して分析するものである。今年度は「近代的なモニュメント概念と彫刻概念が生起する新古典主義期の作例研究」として、《アントニオ・カノーヴァの墓》の分析を進め、紀要論文において、その近代的モニュメントとしての先駆的性格(作家性の後退とアレゴリーの復権)を明らかにした。 「近代彫刻とモニュメントとの関連の分析」としては、アルトゥーロ・マルティーニの著作分析を行い、近代彫刻におけるモニュメントの不調を確認する一方(『彫刻2』に寄稿)、カノーヴァとマルティーニをつなぐ期間(19世紀中葉から20世紀初頭)のヴェネツィアのモニュメント造立について文献調査を進めた。また、大熊氏廣の作品分析および大熊が師事したジュリオ・モンテヴェルデの調査にも着手し、日本・イタリアにおける19世紀の多様な「彫像熱狂」の把握を進めている。さらに、昨年度にひきつづき写真による彫刻イメージの形成・流通(脱モニュメント化)に関する研究を進め、著書『像をうつす 複製技術時代の彫刻と写真』の執筆をほぼ完了した(来年度出版予定)。 基礎的な作業として、ひきつづき19世紀以後のモニュメントおよび歴史表象をめぐる議論を調査すると同時に、「現代のモニュメント論争の分析」も進め、その知見を都度、愛知県立芸術大学における連続特別講義にて報告。実技系教員との討議を進め、研究に資する多くの知見を得た。 全体としては、国内外の実地調査に大きく制約のあるなか、可能な文献調査と過去の実地調査のデータを組み合わせることで、成果の公開を確実に進め、研究実績の積み上げを実現している。結果として、美術史学の研究対象とされることの限られていた論点(モニュメントと写真イメージの関係)や芸術家(モンテヴェルデなど)に調査を広げ、学問領域の拡張や更新を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
モニュメント論の基本文献の整理、近現代彫刻史における反モニュメント的契機をあとづける文献調査、19世紀のイタリア彫刻(リソルジメント期のモニュメント、モンテヴェルデの活動)についての資料収集は順調に進んでおり、成果の公表もあるていど実現したが、国内外の実地調査になお大きく制約があるため、当初予定していたヨーロッパ、アジアでの実作ならびに史料調査は本年度も実現しなかった。国内調査は今後スムーズに進められるものと思われるので、それに応じた研究領域・方法の調整を行なっているところである。 一方、昨年度より研究テーマに加えたモニュメントと写真の相関に関する調査は順調に推移し、来年度には成果公開が可能な状況である。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内で可能な調査、すなわち(1)現在のモニュメント論争の俯瞰、(2)大熊氏廣周辺の史料調査の比重を増やす。国外調査については渡航先を絞り、個別事例の精査に努める。とくに大熊と関わるモンテヴェルデの故地にて、史料調査を進めるなど、イタリアでの調査を重点化する。また、「モニュメントと写真の相関に関する調査」のケーススタディとして、韓国、シンガポールでの調査を進めたい。 並行して、研究者・彫刻家をまじえた小企画(シンポジウムや展示)を実施し、情報の交換とネットワークの構築を進める。 いずれも感染症の状況に左右される部分があるが、都度、柔軟かつ実効的に調整・実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初計画で見込んだ国内外調査を延期したため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度使用額は令和4年度請求額と合わせて旅費および物品費(資料の購入)として使用する予定である。
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備考 |
展覧会評。日本近代のモニュメントの特性について、大熊氏廣を軸に論及した。
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