研究課題/領域番号 |
20K00170
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
金井 直 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (10456494)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モニュメント / 彫刻 / 新古典主義 / 現代美術 |
研究実績の概要 |
本研究は近代社会におけるモニュメントの生成・流通の構造を、彫刻史の精査を通して分析するものである。今年度は「現代のモニュメント論争の分析」として、シンガポールにおいてAIM(Artists Investigating Monuments)の展開と、それに先立つASEANの彫刻ワークショップの歴史について、現地調査を実施した。また、ヴェネツィア・ビエンナーレ、イタリア外務省他、国内外の展示および公共空間におけるモニュメントの事例調査を進めた。 「近代彫刻とモニュメントとの関連の分析」の中心を成したのは、大熊氏廣とジュリオ・モンテヴェルデの実作調査とそれらの照合である。とくに重要であったのは、モンテヴェルデの本来のレパートリーの広さと、大熊によるその一種の取捨選択を確認できたことである。これは日本のモニュメント史を検討する上で、重要な論点となるだろう。その他、各地での調査を通して、日本・イタリアにおける多様な「彫像熱狂」の把握を進めることができた。 研究成果の公開として、『像をうつす 複製技術時代の彫刻と写真』(単著)を刊行し、写真による彫刻イメージの形成・流通(脱モニュメント化)に関する論点を明らかにした。また、上記の一連の調査成果を愛知県立芸術大学における連続特別講義にて逐次報告し、実技系教員との討議を実施。研究に資する多くの知見を得た。「ファルネジーナ・コレクション展」をめぐるイタリア文化会館との協働(翻訳、調査、普及活動)も成果公開の一端である。 全体としては、国内外での実地調査を順次再開することができ、これまでの文献調査と組み合わせることで、論点の整理やさらなる仮説の設定が実現した。結果として、モニュメントと写真の関係、モンテヴェルデ再評価、東南アジアのモニュメントと政治など、從來、美術史学の研究対象とされることの限られていたテーマの重要性を明らかにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
モニュメント論の基本文献の整理、近現代彫刻史における反モニュメント的契機をあとづける文献調査、19世紀のイタリア彫刻(リソルジメント期のモニュメント、モンテヴェルデの活動)についての資料収集は順調に進んでいる。国内外での実地調査も再開でき、個々の作品の図像・様式、設置環境等の調査分析も進んでいる。関係の研究者との情報交換も行っている。成果の公開も、モニュメントと写真の相関に関しては、著書の刊行によって、あるていど実現した。現在、モンテヴェルデ-大熊氏廣論を準備中である。 一方、全体の研究スケジュールからすれば、長期にわたった渡航制限により、とりわけ国外における実地調査の遅れは否定できない。来年度は特にアジアでの調査を進めるべく、現在、予備調査中である。事業期間について、1年間の延長を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
【調査】遅滞していた国外調査について、来年度は韓国で実施し、これまでの国内外調査で得た情報と合わせて、比較分析を進める(現代のモニュメント論争の分析)。 【執筆】モンテヴェルデ-大熊氏廣論をまとめ、彫刻史研究の新たな視座を示す(近代彫刻とモニュメントとの関連の分析)。関連して、ポスト・カノーヴァのローマの新古典主義的な彫刻環境が20世紀のモニュメント文化・産業に転ずる経緯を明らかにしたい(現代のモニュメント撤去問題の前史を論じる)。 【情報公開】並行して、これまでの調査研究を活かして、研究者・彫刻家をまじえた小企画(シンポジウムや展示)を実施し、成果公開と情報交換の機会をもつ(報告書の出版を予定)。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)渡航制限や受け入れ機関の状況を受けて、当初計画で見込んだ国外調査を延期したため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)延期していた国外調査の旅費を中心に、物品費(資料の購入)として使用する予定である。
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備考 |
講演「ヴィジョンとしてのファルネジーナコレクション」2023年3月31日、イタリア文化会館 東京
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