本研究は近代社会におけるモニュメントの生成・流通の構造を、彫刻史の精査を通して分析するものである。今年度は、昨年度に引き続き、ジュリオ・モンテヴェルデ調査をローマ、ジェノヴァ、スキーオで実施。アーカイブ調査を通して、生前の活動と評価を確認すると同時に、墓碑彫刻、公共彫刻の様式や設置状況を実地に調査し、その創作活動の展開を把握。モンテヴェルデを通して近代イタリアにおけるモニュメント建立の社会的文脈を検証した。また、モンテヴェルデの造像実践と、大熊氏廣のそれとの比較を進め、後者による選択的受容と、それによる近代日本における銅像文化の形成について、新たな考察を進めた。そのほか、昨年度の研究成果『像をうつす 複製技術時代の彫刻と写真』の論点を引き継ぎ、モニュメントの表象に関する研究も行なった。 研究成果として「大熊氏廣とジュリオ・モンテヴェルデ」『信州大学人文科学論集』第11号(第2冊)を公開。モニュメントの表象をめぐっては『デ・キリコ展』(展覧会図録、東京都美術館他)に「ジョルジョ・デ・キリコと彫刻」を寄稿した(出版は2024年度)。その他の彫刻関連の研究公開として豊田市美術館の展覧会図録で発表したジルベルト・ゾリオ論がある。また、一連の調査成果を愛知県立芸術大学における連続特別講義にて逐次報告した。 期間全体を通じて実施した研究として、アントニオ・カノーヴァ周辺の彫刻家およびイタリア・日本のモニュメント・墓碑彫刻に関する資料収集と調査がある。「《カノーヴァの墓》(1827年)をめぐって」(2022年)と「大熊氏廣とジュリオ・モンテヴェルデ」(2024年)を合わせて、ひとつの近代モニュメント論を示し得たが、今後、調査済みの他事例も加え、さらに論究を進める。また、2022年度のシンガポールにおけるパブリック彫刻の調査成果を活かしつつ、いっそう多元的なモニュメント論の構築も目指したい。
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