研究課題/領域番号 |
20K00171
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
加藤 瑞穂 大阪大学, 総合学術博物館, 招へい准教授 (70613892)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 具体美術協会 / 1960-70年代 / 個と集団 / 田中敦子 / 山崎つる子 / 堀尾昭子 |
研究実績の概要 |
本研究は、関西に生まれた戦後日本を代表する前衛美術グループ・具体美術協会(略称「具体」、1954-1972年)のメンバーが、1960-70年代にグループを離れた個人の活動をいかに展開したか、またその作品はグループの一員として発表した作品といかに異なるかといった、個と集団の関係の解明を目的にしている。その手がかりとして、主要メンバーの一人であった田中敦子(1932-2005年)に着目し、他の女性メンバー二名(山崎つる子 1925-2019年、堀尾昭子 1937年- )とも比較しながら分析することで、「具体」の個と集団の関係に見られる特徴を抽出しようと試みた。 令和2(2020)年度には、田中、山崎、堀尾各人の1960年代を中心とした作品写真の収集・撮影、作品データベースや詳細な活動歴の作成に取り組んだ。田中については、大阪大学総合学術博物館に寄託されているアトリエに残された書籍・画材・写真類をほぼ整理し、従来知られていなかった具体退会後の活動歴を年譜に反映させた。山崎については、作品の管理を遺族より委託されているLADS GALLERYの協力を得て、山崎の残した書籍・写真等を調査した。これまで詳細な作品データや年譜が出版されていないことに鑑み、1960年代のみならず生涯の作品データベースおよび活動歴の編集に取り組み、約半分の完成に至った。また公的機関十一箇所に収蔵されている山崎作品の調査は、近畿圏内の二箇所で実施した。堀尾については、昨年作品と共に寄贈された資料のうち1960-70年代の写真や展覧会関連印刷物は本学大学院生の協力を得て、全体量七割の整理を終えデータベース化した。このうち写真は、劣化が懸念される24枚撮り35ミリフィルム約180本のうち47本をデータ化し、作家自身へのインタヴューを踏まえて撮影内容を把握した。以上の過程で得られた視点を、本課題の研究期間中に発表した具体に関する論考や講演等で生かすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の概要で述べたとおり、資料調査に関してはほぼ予定どおりであった。しかし昨春以来の新型コロナウイルス感染症拡大で、大阪府と兵庫県下で緊急事態宣言が発出され、近畿圏外への移動が困難になると共に、高齢である堀尾への聞き取り調査も避けるほうが望ましい状況になった。それゆえ十一箇所の公的機関に所蔵された山崎作品の調査のうち、実施できたのは大阪中之島美術館と芦屋市立美術博物館の二箇所のみとなり、四回程度を予定していた堀尾への聞き取り調査も一回に留まった。また予定では2021(令和3)年度にニューヨーク近代美術館にて田中の1960年代後半の未見資料を現地調査するため、前年度はその準備を進めるはずであったが、現時点では渡航の見通しが立っていない。研究成果を発表する目的で2022(令和4)年度に予定しているシンポジウムについても、パネリストの一人がアメリカ在住で、移動の制限がある現状では招聘の具体的な協議もできず、本課題の研究期間の一年延期を検討せざるを得ない状況である。 一方で、具体の1970年前後における個と集団の関係に関して、このたびの資料調査で新たに得た視点や知見を、以下のような複数の場で生かす機会があった。それは、大阪大学総合学術博物館での展覧会「EXPO ’70 大阪万博の記憶とアート」および同展関連書籍『EXPO '70 大阪万博の記憶とアート』収録の論考「具体美術まつり―『新しい美術ショー』が目指したもの」、そしてボーダレス・アートミュージアムNO-MA(滋賀県近江八幡市)での「文字模似言葉」展カタログ収録の論考「具体美術協会と言葉」ならびに関連講演会「ことばと美術―GUTAIを糸口に」である。前者では、1970年の万博に対して必ずしも一枚岩ではなかったメンバー各自の姿勢、後者では、具体における言葉の扱い方の特質と、1972年の具体解散後に各自が見せた展開の多様性に言及することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021(令和3)年度は、4月の時点でいまだ新型コロナウイルス感染症拡大の収束が見通せないため、年度前半は身近で行える資料調査に集中して取り組む。山崎に関しては生涯の作品のデータベースおよび活動歴を完成させ、また公的機関残り九箇所での作品調査は、新型コロナウイルス感染症をめぐる社会状況を考慮しながら、できる限り年度後半に終了させる。堀尾については、前年度から引き続き大学院生の協力を得ながら残る三割の資料のデータベース化を実施する。それと並行して撮影内容が未確認の35ミリフィルム約130本のデータ化を進め、堀尾への聞き取り調査も二回程度をめどに可能な範囲で行いたい。前年度の調査で、堀尾が具体解散後、夫の堀尾貞治と共に関わった継続的なグループ活動のうち、ぼんくらという居酒屋を中心にした会合と作品発表が重要と認識したため、その活動に詳しい作家への聞き取りも二回ほど行う予定である。田中については、研究代表者のここ二十年余りの田中および金山と吉原の研究をまとめた著作の出版提案があり、そこに本研究での成果を盛り込み、出版準備を進める。 これらの研究結果を発表するためのシンポジウムについては、社会状況を見ながら東京とニューヨーク在住のパネリスト予定者との協議を行い、東京の場合は、状況が許せば今年度中には一度対面での打ち合わせを実施する。ニューヨークについては2022(令和4)年度には渡航して、パネリスト予定者とシンポジウム内容を直接話合う機会を持ち、シンポジウム自体は当初予定よりも一年延期して2023(令和5)年度に実現できるよう調整したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020(令和2)年度使用額が、当初予定の半分に留まった主な要因は、次の三点が挙げられる。第一に新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、大阪府・兵庫県下以外の地域への移動が制限され、作品調査がほとんど実施できなかったため、旅費の支出がなかったこと、第二に同じくその影響で、聞き取り調査の実施予定回数が四分の一になり、謝金の支出が限られたこと、そして第三に映像のデジタル化にあたって事前整理に時間を要し、実際にデジタル化を行えなかったことである。 新型コロナウイルス感染症による社会状況の改善がいまだ見られず、2021(令和3)年度も研究計画が予定どおり進むかどうか不透明だが、遠方への移動が伴わない資料調査と資料のデジタル化をすべて完了させ、前年度使用残額も含めて研究を進めて行く。そして社会状況の好転が見られたらすぐさま作品調査に赴けるよう準備をしておきたい。
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備考 |
「ことばと美術―GUTAIを糸口に」、「文字模似言葉パフォーマンス&講演会」、ボーダレス・アートミュージアムNO-MA(滋賀県近江八幡市)、2021年2月13日 https://www.no-ma.jp/?p=22267 「具体美術協会と言葉」、今井祝雄監修『文字模似言葉』展カタログ、ボーダレス・アートミュージアムNO-MA(滋賀県近江八幡市)、2021年4月、64-76頁(184頁のうち)
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