最終年度は、3年間の調査報告として『園城寺法明院近代資料調査報告書』を刊行した。第9代法明院住職の桜井敬徳のもとには、1878(明治11)年に来日したアーネスト・フェノロサ、ボストンの富豪ウィリアム・ビゲロー、博物館初代館長町田久成、当時文部官僚であった岡倉覚三(天心)ら、明治の文化財保護に関わった人物が訪ねている。現在も法明院には彼らの交流を辿ることができる書簡や日誌、写真など、関係資料が所蔵されている。 本報告書には、法明院に所蔵される近代資料の全画像と、書簡類の翻刻、英文書下しを掲載し、今後の研究に役立てる資料としてまとめた。研究代表者である井上瞳が法明院近代資料の概要とビゲローにとっての仏教の意義について考察し、当初から調査に携わった大津市歴史博物館の鯨井清隆学芸員と、20世紀初頭のボストンにおける仏教の流布についての研究があるボストン大学デビッド・エッケル教授が執筆に加った。フェノロサ、ビゲローに至る法明院の歴史に関する縦軸と、明治時代の仏教を通した日米の交流を横軸に据え、多角的な考察を試みることができた。本報告書によって、これまで断片的にしか知られていなかった法明院近代資料の全体像をつかむことができ、ビゲローが明治日本の仏教界と美術館の両面に果たした功績の一面を明らかにすることができた。 以上、2020・21年度に①日本文化支援者としてのビゲローの活動、②ボストン美術館における理事と日本美術コレクターとしてのビゲローの役割の2項目について取組み、学会発表及び学会誌にて成果を示した。また3年間を通して③仏教者としてのビゲローの思想とその影響について、これを明らかにすべく法明院資料の整理解読を行い、2022年度に報告書刊行という成果を残した。 3年間の調査研究を通して、ビゲローのボストン美術館における存在の重要性と、日米の仏教と文化支援の関わりを明らかにした。
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