研究課題/領域番号 |
20K00182
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
金 貴粉 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20648711)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 朝鮮書芸 / 近代朝鮮史 / 書画 / 韓国美術 / 日本書道史 |
研究実績の概要 |
本研究では近代朝鮮の「書」が創出した新たな価値の解明を大きな目的とし、その解明に向けて1.官僚出身書家たちの作品と書に関する活動の具体相、2.官僚出身の書家たちの書芸観・価値観、3.近代東アジアの「書」の展開における位置・独自の価値、といった諸点を明らかにすることを目的としている。 令和2(2020)年度では以上の目的のために、国内外の諸機関において作品関連資料を実地調査する予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大のため、可能な範囲での調査(国立国会図書館)と収集資料における調査・研究を行うこととした。 今年度は近代朝鮮の書人とも関係の深い日本人書家である比田井天来や朝鮮総督府官僚であった工藤壮平の朝鮮書道研究に焦点をあて、彼らの研究成果が日本における朝鮮書道の普及にどのような影響を及ぼしたのかという点について明らかにした。1919年に工藤壮平によって刊行された朝鮮書跡集『心無けい礙楼鶏林書存』はそれまでほとんど周知されていなかった朝鮮の書を日本に伝える嚆矢であった。また、比田井天来によって1931年に刊行された『朝鮮書道菁華』は、当時、初めての書の全集である『書道全集』の配本が始まった時期とも重なり、日本国内における書道研究が中国だけではなく、朝鮮書道理解を促す一翼を担ったといえた。また、それらの成果が生み出される背景には金敦熙ら朝鮮人書芸家らの助言があったことが明らかになった。 朝鮮書道の将来について、「日本書道」の一部として継承していくことを是とする見解は当時の宗主国民に一般的なもので、残念ながら比田井や工藤もその見解からは自由ではなかった。しかし、その中でも金敦熙との出会いによって、彼からの教示も受けつつ、結果的に共作ともいうべき『朝鮮書道菁華』が完成したことについては、宗主国民主導の書道史を相対化させた点においても評価に値するという結論を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は新型コロナウィルス感染拡大防止のため、当初予定していた海外調査が行えなかったが、その分、国内における資料調査を行い、当時の日本人書家による朝鮮書道研究や朝鮮人書芸家らとのつながりについて考察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新型コロナウィルスの感染拡大状況をふまえて、可能な範囲で国内関係機関(国立国会図書館、佐野市郷土博物館、佐久市立天来記念館等)において日本と関係の深い作家(金圭鎮、金敦熙、呉世昌、高義東)と作品関連資料を実地調査し、作家別・作品別に整理してデジタルデータ化していきたい。 また、同様に海外関係機関(国立中央博物館、書芸博物館、ソウル大学校博物館(以上韓国)において作品が現存する作家(趙錫普、安中植、姜ジン熙、丁大有、玄采、金應元、丁学秀、姜弼周、金圭鎮、金敦熙、呉世昌、李道榮、高義東)の作品関連資料を実地調査し、作家別・作品別に整理してデジタルデータ化し、検討を加えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、調査のための旅費に使用する予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大にともない、旅費として執行することができなくなったため、当該助成金が生じた。 来年度には、当該助成金とあわせ、感染拡大状況をふまえて、旅費として使用していきたい。
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