研究課題/領域番号 |
20K00188
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
土谷 真紀 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 准教授 (80757451)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 絵巻 / 狩野派絵巻 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、千葉県・鏡忍寺所蔵「日蓮聖人註画讃」の熟覧を行った。 これにより以下の知見があった。鏡忍寺本「日蓮聖人註画讃」は、室町期に制作された狩野派絵巻とやまと絵の両者を併存させた表現、画風を持ち、水墨に関心を寄せる表現が多々見られた。しかしながらその影響は直接的というよりもむしろそれらの普及の中でみられる表現であった。 人物は神奈川県立歴史博物館所蔵の「北野天神縁起絵巻」をさらに硬化したような風貌を見せ、女性は、サントリー美術館所蔵「酒伝童子絵巻」に描かれる特徴に準じたものが散見された。男性は髪の毛や髭を細い線で描き、狩野派絵巻に特有の、片膝を立てる人物表現も見られた。樹木の表現は、やまと絵や漢画に由来する画風のものが混在する。 注目されるのが水墨画で見られる技法に基づく遠景、遠山表現である。例えば、「九 彗星」の場面においては、現存最古とされる本圀寺本「日蓮聖人註画讃」では、詞書に従い、前半で人物を布置し、その後彗星が現れるのに対し、鏡忍寺本は、水墨で樹木と山容のみ表し、星の流れていく様子を著彩で描く。険しい山中の表現は、漢画、著彩の両者を用いる。その岩は狩野派でいう行体に相当する。 特徴的なのが霞の表現とこれを利用した場面の布置である。霞は、狩野派絵巻に見られる直線的な輪郭線ではなく、ゆがみを伴う輪郭線で描出される。この霞の特徴は本圀寺本とも異なり大永四年(1524)に制作の「真如堂縁起絵巻」のような蛇行する輪郭線を伴う霞を想起させる。本絵巻は一段のなかで複数の場面を描きこむが、霞を用いながら対角線上に場面を布置することによってリズミカルに場面を見ることができ、これは狩野派絵巻の「釈迦堂縁起絵巻」などに見られるものと通じる。上述の特徴を踏まえれば、鏡忍寺本は、やまと絵系絵巻に加え、狩野派絵巻、強いて言えば水墨技法にも関心を持った絵師の手になる絵巻と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
渡航による調査について調整が整わなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
すみやかに海外渡航の目途をたて,可能な限り当初予定の機関での調査を目指す。現在確認し得る作品については、画像をもとにさらに分析を進め、分析結果を公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナによる渡航の困難、ならびに調査先との調整が間に合わなかったため。使用計画としては、渡航費および関連する書籍、機材等の購入費に充てる。
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