本研究では、江戸時代後期から明治時代中期に至る女性の小袖・着物の様式変遷を解明するために不可欠な資料と考えられる肉筆雛形本の所在を明らかにし、それらの具体的内容を含めてデータベース化して公開することを到達目標としているが、最終年度である2022年度においても一部これを行うことを計画していたが、今年度も新型コロナウイルス蔓延が完全には収束しなかったことから、各機関へ赴いて行う実地調査の実施は事実上非常に限定的なものとなった。 こうしたことを背景に、最終年度である本年度は、主に以下の作業を進めた。(1)アーカイブとしては所蔵する冊子資料の全点を公開していない三井文庫・共立女子大学において、肉筆雛形本及びこれと共に使用されたと考えられる色見本帳・型染見本帳の所蔵の有無を確認し、該当するものについては調査した。また、江戸時代の三井越後屋の資料を保管する三井文庫においては、江戸時代の呉服の注文と制作、納品に至る過程を知る手がかりなると推測される資料の所在も確認した。(2)裾にのみ模様を配する形式の着物が大部分となった明治時代には、呉服の注文に当たっては、裾の部分の模様を生地に染め出して冊子に貼り付けた染見本も使用された。一方、明治時代には小紋染も、多く着物の加飾に用いられたため、裾模様の着物を注文しない場合には、肉筆雛形本を用いず型染見本帳が呉服注文に用いられた。明治時代に制作・使用されたこれらの資料は、その特殊性ゆえに公的博物館や図書館では全く収集の対象とされてこなかったため、これらは古書店あるいは古美術商から購入して調査するほかはない。そこで、本年度も、明治時代の肉筆雛形本や色見本帳、小紋帳のほか、呉服注文に際して使用された染裂見本帳を研究のため購入した。(3)購入した染見本帳について、今後の分類・整理作業および研究のために写真撮影を行ったほか、表形式でデータベース化した。
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